宮澤賢治「銀河鉄道の夜」天の川にぽっかりあいた"空の穴"は、星のモトが集まる場所

こまき

先日の「銀河鉄道はどうして"天の川"を走ったのか?」に引き続き、今回も宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を"日本文学と宇宙"という視点から読み解いてみます。

宮澤賢治の代表作のひとつでもある『銀河鉄道の夜』は、主人公のジョバンニが親友カムパネルラと一緒に「銀河鉄道」に乗って、銀河をめぐる旅をする話です。

作中には特に日付の記載はありませんが、物語に登場する星座から、初夏から初秋にかけての物語だといわれています。少年の心の揺れ動き、そして言うまでもなく、宮澤賢治の描く銀河の情景を楽しむことができる作品です。

銀河鉄道の旅の途中、姿を消すカムパネルラ

“気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけて” おり、主人公のジョバンニは “すぐ前の席に、ぬれたようにまっ黒な上着を着た、せいの高い子供が、窓から頭を出して外を見ている” ことに気づきます。それは、親友のカムパネルラでした。

銀河ステーションを出発した銀河鉄道は、白鳥の停車場やアルビレオの観測所、南十字などを走りながら、様々な出会いと別れをジョバンニに与えます。

汽車を降りていった女の子が語ったさそりの話に感銘を受けたジョバンニとカムパネルラは “僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない” と、どこまでも一緒に行こうと誓いました。しかし、ジョバンニがふと振り返ると、もうそこにカムパネルラの姿はなかったのです。

カムパネルラが指さした「そらの孔」

姿を消す直前、カムパネルラは天の川の暗い部分を指さしました。

「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが云いました。「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」


天の川を見てみると、そこだけ星がないかのような黒い空間があることがわかります。

ジョバンニが思わず “ぎくっとして” しまうほどの “大きなまっくらな孔” である石炭袋は、みなみじゅうじ座にある「暗黒星雲」と呼ばれるもののひとつ。星間空間に浮かぶ塵(ダスト)が濃く集まった領域です。星雲中の塵(ダスト)が後ろにある星の光を吸収するため、私たちの目にはぽっかりと黒い穴があいているように見えるのです。

暗黒星雲には星の材料であるガスや塵が他の空域より濃く集まっており、星が誕生しつつある場所でもあります。カムパネルラは「そらの孔(あな)だよ」と言っていますが、実際には逆に今から生まれるであろう星のモトがたくさん集まっている場所なのです。

銀河鉄道の夜

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