『縮緬本』とは、和紙に印刷した後、絞って加工して和本に仕立てたもので、明治期に長谷川武次郎によって考案されました。来日した外国人のお土産用として作られ、外国へ日本文化を紹介するのに一役買いました。見た目や手触りが絹ちりめん布にが似ていることから『縮緬本』と呼ばれています。
京都市の国際日本文化研究センターでは、明治中期から昭和初期にかけて日本国内で出版された縮緬本のうち、絵本を中心に200点ほどのコレクションを所蔵しています。日文研ではこの中から「桃太郎」から始まる「日本昔噺シリーズ」等のデジタル化を実施。日文研のサイトでは『ちりめん本データベース』が公開されています。
現在、データベースに収録されているちりめん本は、五大昔話と言われる「桃太郎」「舌切り雀」「猿蟹合戦」「花咲爺」「かちかち山」をはじめ、「瘤取」「浦島」「分福茶釜」などのメジャーな物語が収録されています。好評を博したシリーズ、全20冊から成るJapanese Fairy Tale Series.(日本昔噺集)は、英語以外に、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、オランダ語なども出版されました。
挿絵は多色摺りの木版画で制作されており、アートとしても楽しめるクオリティ。全体的に現代の昔話の絵柄よりも、写実的で大人向けな印象です。中でも、お話に登場する動物たちの表現にはなかなか独特なものがあります。新鮮な驚きがいっぱいの『ちりめん本データベース』に収録されている昔話の中から、いくつかをご紹介します。
【Momotaro】
タイトル(和訳)桃太郎:英語
桃太郎と家来たちが鬼ヶ島に乗り込む場面。塀の上からは2匹の鬼がのぞいています。
桃太郎誕生の瞬間。桃が青い!桃太郎といえばピンクの桃の概念が打ち砕かれました。
桃太郎が赤鬼をこらしめる場面。戦装束に身を包んだ、犬・猿・キジの擬人化表現が新鮮ですね。
【El gorrion con la lengua cortada】
タイトル(和訳)舌切雀:スペイン語
雀のお宿で大きいつづらを選んだ悪いおじいさんと、心配そうに見守るスズメたち。こちらの擬人化ぶりもなかなかのインパクト。きものから出ているのは完全に人間の手です。
大きなつづらから出てきたのはお化けでした。かなり本気の妖怪が描かれています。
【Hanasaki Jiji】
タイトル(和訳)花咲爺:英語
タイトルの和訳が「花咲かじいさん」ではなく、「花咲爺」なんですね。
ここほれワンワン。隣からのぞいているおじいさんが、ものすごい悪い顔してますよ。花咲爺さん、後ろ後ろ!
【La bataille du singe et du crabe】
タイトル(和訳)猿蟹合戦:フランス語
蟹に加勢するのは臼と杵、蜂、と玉子!栗じゃないのか。たしかに栗よりも玉子の爆発力のほうが強そう。
見開きでの挿絵。猿と蟹の戦の場面です。蟹がすっくと立ち上がっております。
【Urashima : o joven pescador】
タイトル(和訳)浦島:ポルトガル語
乙姫様と竜宮城でもてなされる浦島太郎。足が生えてる魚たちがシュールです。
玉手箱を開けたら老人になってしまった浦島太郎。煙が立ち上るというより、強風が吹き出しているように見えます。
国際日本文化研究センターのちりめん本データベースでは、それぞれの本の全ページが閲覧できる他、古典詩歌なども収録されています。奥付や裏表紙にも工夫が凝らされていて、小さくても魅力たっぷりのちりめん本。ぜひ、他の収録作品も鑑賞してみてくださいね。