毎年、年末が近づくに連れて注目が高まるNHK大河ドラマの主人公。2025年は、ご存じのように「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜」で、江戸時代の出版王・メディア王として知られる、蔦屋重三郎(通称/蔦重(つたじゅう)が主人公です。
親なし・金なし・風流なし……のないないづくしといわれた蔦重でしたが、今でいうメディア戦略の才能に長けたヒットメーカーとして知られていました。
先見の明を持つ野心家ながら、きっぷがいい男とも評価された蔦重の人物像とともに、彼が携わった「大ヒット作品」たちをご紹介します。
遊廓が並ぶ「女の園」で生まれ育った重三郎
蔦屋重三郎は寛延3年(1750)、吉原遊廓(新吉原)で生まれました。
7歳にして両親が離婚、吉原で引手茶屋「蔦屋」を営む喜多川家の養子になりました。
引手茶屋とは、吉原遊廓で客を遊女屋に案内したり酒宴をさせたりする斡旋業のような場所だったそうです。
その当時の吉原は、200軒以上もの妓楼(遊女を置いて客を遊ばせる家)・茶屋・土産物屋・料理屋・湯屋などが立ち並び、遊廓で遊ぶ以外にも楽しめる、江戸の巨大な観光名所となっていました。
遊女をはじめさまざまな商売を営む人々とともに生活し、観光客や遊廓客など多くの人を観察できる吉原という特殊な環境の中で育った蔦重。
さまざまな情報が集まる吉原で、蔦重はトレンドをいち早く掴む感性を磨き、幅広いネットワークを築いていったようです。
レンタル商売流行りの江戸で貸本屋を開業
安永元年(1772)23歳頃の重三郎は貸本屋を兼ねた書店を開業します。
江戸時代は、火事が多く物を所有するのはリスクが高いために、鍋・釜・布巾・ふんどしまでいろいろなもののレンタル業が盛んでした。書籍も庶民にとっては高価なものだったので、貸本屋は大いに繁盛していたそうです。
野心家で才気あふれる蔦重にとって、貸本屋はいわばファーストステップ。
貸本屋としてさまざまな利用客と接し、吉原のトレンド情報を集めた蔦重が目を付けたのは遊廓のガイドブック作りでした。
2ページ目 吉原育ちの重三郎ならではの吉原ガイドブックが大ヒット