健康な歯も抜いていた
縄文時代の人骨は、貝塚や墓地遺跡から多数発掘されていますが、それらにはなぜか「抜歯」されたものが少なくありません。
それでも現代は麻酔が発達していますので、抜歯の苦痛は最低限に抑えられています。しかしそれでも、歯を抜くと聞くとあまりいい気分はしませんね。
現代では、どうしようもない歯痛などを治療するのにやむをえないときに歯を抜きますが、縄文時代の人々は健康な歯を抜いているのです。
例えば上あごの門歯を抜いたもの、上下あごの犬歯を抜いたもの、上下あごの犬歯と門歯にくわえ、第一小臼歯を抜いた人骨などが発掘されているのです。
彼らはなぜ、こんなことをしたのでしょうか?
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大昔の成人式?
こうした抜歯の習慣は、縄文中期に仙台湾沿岸に発生し、後期には関東、九州地方にまで広がっていたようです。特に、縄文後期と晩期の抜歯率は非常に高いです。
縄文時代の抜歯の方法を想像してみましょう。
まず、抜く歯の内側に堅い棒をあてて外側から石で叩き、ぐらぐらにさせます。そうしてぐらぐらになった歯に紐をひっかけて一気に引き抜く。といった荒っぽいやり方ではなかったかと思います。
想像するだけでゾッとしますね。
当時の人々の人骨をさらに詳しく調べると、彼らが歯を抜いた時期は、いわゆる第二次性徴期だったようです。男女ともに抜歯が行われていることから、これは大人になるための通過儀礼の一つだったのでしょう。
特に、成人の全員が上顎左右の犬歯を抜いていることから、抜歯は成人式に相当する儀式だったのではないかと考えられます。
もちろん、当時、満足な麻酔薬や止血剤があるわけもないので、抜歯には相当の痛みが伴います。ただ痛いだけではなく、消毒もできないのですから時には命に関わるような危険な儀式だったに違いありません。
縄文人にとっては、その痛みに耐えることが大人への仲間入りを意味したのでしょう。