執筆に関する伝承
大河ドラマ『光る君へ』で話題沸騰中の紫式部ですが、『源氏物語』の起草にまつわる有名な伝承があります。
寛弘元(1004)年のある日、選子内親王が、中宮の彰子に「まだ読んだことのない珍しい物語が読みたい」と所望したのです。
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選子内親王は、第6代村上天皇の第10皇女。村上天皇は、第66代一条天皇の先々々々代にあたります。
そこで彰子は、女房である紫式部に、新しい物語を書くように依頼します。大役を任された紫式部は、琵琶湖から流れ出る瀬田川のほとりに位置する名刹・石山寺(滋賀県大津市)にこもり、物語の着想を得ようと祈願しました。
数日後、琵琶湖の湖面に映る美しい十五夜の名月を眺めていると、都から須磨(兵庫県神戸市須磨区)に流された貴公子が、月を眺めながら都を回想する一場面を思い立ちます。そこで、
月のいとはなやかにさし出でたるに、 「今宵は十五夜なりけり」と思し出でて……
(月がとても明るく出たので、「今夜は十五夜であったなあ」と思い出して……)
と書き始め、やがて壮大な『源氏物語』を完成させた、というエピソードです。
なお、この書き出しは『源氏物語』全5帖の第112帖「須磨」の冒頭にあたります。
この「源氏物語のおこり」と呼ばれるエピソードは、平安時代末期に成立したとされる『古本説話集』、鎌倉時代初期の『無名草子』、南北朝時代に書かれた『源氏物語』の注釈書『河海抄』などに収められています。
また、石山寺の一角には紫式部が執筆したという部屋 「源氏の間」が遺されています。