リスニングの失敗で生まれた「メンチカツ」
メンチカツとミンチカツ、これらはほぼ同じ料理ですが、なぜか二種類の呼び名があります。全国で広く使われている名称はおそらく「メンチカツ」の方で間違いありませんが、実はその起源は、明治28年に創業した洋食店「煉瓦亭」に遡ります。
煉瓦亭の初代店主は、オープンから四年目が経った頃に、ひき肉を使った「ポークカツ」というメニューを考案しました。
そこで店主は、外国人にも分かりやすい料理名をつけて多くの人に親しんでもらいたいと考えます。で、外国人のお客に「ひき肉」は英語で何と呼ぶのかを尋ねました。この頃は、日本にも多くの外国人が訪れるようになっていたのです。
そのお客が口にした言葉は「ミンスミート(Mince meat)」でした。店主はこの言葉を聞き間違えて「メンチミート」と誤解したのです。
こうして生まれたのが「メンチカツ」でした。つまりメンチカツという名称は、リスニングの失敗の産物だったのです。
しかしこの微妙なネーミングとは関係なく、名前を与えられたメンチカツは全国的に広まります。煉瓦亭の店主の料理センスはかなりのものだったのでしょう。そして、これと歩調をあわせてひき肉もメンチと呼ばれるようになったのです。
リスニングの失敗に引きずられて、本来の単語まで改変されて認識されるようになったというのは面白いですね。
この呼び方は、昭和5年に発行された『モダン辞典』によって、ひき肉の外国語の本来の発音が「ミンチ」と定義されるまで続きます。固有名詞としての「メンチカツ」はそのままに、「メンチ」だけは「ミンチ」と改められることになったのでした。