♪カッコウ、カッコウ……♪
静かな森に響き渡るカッコウ(郭公)の声は、もののあはれを寸とも解さない(例えば筆者のような)無骨者の心さえ震わせる美しさ。
なれば風雅をこよなく愛した芸術肌の鎌倉殿・源実朝(みなもとの さねとも)がそれを聴いたなら、どんな一首を詠んだことでしょうか。
殊にその年の初啼きは感慨もひとしお……ということで、さっそく聴きに行こうと張り切るのですが……。
今回は鎌倉幕府の公式記録『吾妻鏡』より、カッコウの声を聴きたがった実朝のエピソードを紹介したいと思います。
いざ聴かん、郭公の声……ワクワクしながら永福寺へ
「何、カッコウが啼いたとな?」
時は建暦元年(1211年)4月28日、実朝はカッコウの初啼き情報を入手して心躍らせました。
「何でも永福寺(ようふくじ。現:鎌倉市二階堂)の林で耳にしたとか。将軍家がお好みかと思い、報告した次第にございます」
「そうじゃな。今年はまだカッコウの声を聴いておらぬゆえ、さっそく明朝聴きに参ろう。太郎(相模太郎=北条泰時)よ、支度をせい」
「ははあ」