文武両道の名将として知られ、人々から「鎌倉ノ本体ノ武士(理想的な鎌倉武士)」などと評された梶原景時(演:中村獅童)。
源頼朝(演:大泉洋)の懐刀として陰に陽に大活躍、時には汚れ仕事や嫌われ役もいとわない万能苦労人でした(それが祟って頼朝の死後、一族揃って粛清されてしまうのですが……)。
そんな才能は息子たちにも受け継がれ、折にふれて発揮されるのですが、今回の舞台は奥州征伐。
嫡男(長男)である梶原源太景季(演:柾木玲弥)と次男の梶原平次景高(へいじかげたか)は、戦場でこんな和歌を詠んだのでした。
君が越ゆれば 関守もなし……源太景季の爽やかな一首
時は文治5年(1189年)7月29日。謀叛人・源義経(演:菅田将暉。故人)を匿った罪で藤原泰衡(演:山本浩司)を討つため、頼朝らは白河関(福島県白河市)を越えました。
ここは坂東と奥州の境界線。大した抵抗もなく乗り込んだ頼朝は余裕綽々、源太景季をそばに招いて語りかけます。
「そろそろ秋か……源太よ、白河と言えば能因法師(のういんほうし)を思い出すのぅ」
能因法師は中古三十六歌仙の一人で諸国を漫遊、白河の関でこんな和歌を詠んだのでした。
都をば 霞とともに 立ちしかど
秋風ぞ吹く 白河の関【意訳】京都を出発したのは霞匂う春だったが、白河の関に着いたらもう秋風が吹いている≒気づけば遠くへ来たものだ。
感慨にふける頼朝へ、景季はその場で即興の一首を献じます。
秋風に 草木の露を 払はせて
君が越ゆれば 関守もなし【意訳】かつて能因法師の感じた秋風が、お裾を濡らす露を払ってくれました。あなた(頼朝)がお越しになると聞いて、何人たりともその行く手を阻めますまい。
……あなたが行くところ、森羅万象すべてが味方。その御意に叶わぬものなどございませぬ。
能因法師&白河関と聞いて「秋風」と受けた当たり、平素から和歌の素養を身に着けていたことが判ります。
若者らしく清々しい秋風のような一首。当意即妙なる景季の歌才に、頼朝は感銘を受けたことでしょう。