NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」前回は信濃源氏の棟梁・木曽義仲(演:青木崇高)が本格始動。
乳兄弟の今井兼平(演:町田悠宇)や幼なじみの巴御前(演:秋元才加)と共に今後の活躍が期待されます。
やがて義仲は叔父の源行家(演:杉本哲太)にそそのかされて上洛を開始、北陸道を突き進みました。
火牛の策で有名な倶利伽羅峠の戦いをはじめ、平家の軍勢を打ち破り、ついには京都から追い出します。
後白河法皇(演:西田敏行)の喜びようは大変なもので、平家討伐の英雄として歓迎された義仲でしたが……。
乱暴狼藉を諫められ、逆ギレする
「平家の都におはせし時は、六波羅殿とて、ただ大方恐ろしかりしばかりなり。衣裳をはぐまではなかりし物を。平家に源氏かへ劣りしたり」
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
……こんな連中だったら、平家の方がよっぽどマシ(平家に源氏かへ劣りしたり)。残念ながら、それが義仲たちの評価でした。
およそ京中には源氏みちみちて、在々所々に入り取り多し。賀茂、八幡の御領ともいはず、青田を刈りて馬草にす。人の倉をうち開けて物を取り、持つて通る物を奪ひ取り、衣裳をはぎ取る。
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
何しろ寄せ集め集団なので義仲による統制がきかず、また十分な恩賞もなかったため、あちこちで強盗や略奪に走る始末。
極めつけは源氏の氏神であるはずの八幡大菩薩(が祀られている石清水八幡宮)に対する不敬。これでは遠からず加護を得られなくなってしまうでしょう。
しかし将兵たちが戦ってくれるのはこうした「旨味」「楽しみ」ゆえであり、自腹で参加させられている以上、これ(物資の現地調達、戦果=利潤の追求)を完全に禁じたら誰もついて来なくなります。
とは言っても、京都洛中で好き放題に暴れ回られてはたまりません。後白河法皇は義仲の元へ平知康(演:矢柴俊博)を派遣しました。
「兵たちの乱暴狼藉を何とかせよ、と院の仰せにございまする(狼藉鎮めよ)」
知康の訴えに対して、義仲はどこ吹く風。無関係な話題ではぐらかします。
「そもそも、殿を鼓判官といふは、よろづの人に討たれたうたか、張られたうたか」
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
「ところで貴殿は鼓判官(つづみほうがん)とあだ名されておるそうじゃが、みんなから殴られでもしたのか。ビンタでも喰らったのか」
さぞやいい音がするんだろうなぁ、我も一つ殴ってみようか……とばかりの態度に知康はうんざり。さっさと戻って後白河法皇に事の次第を報告しました。
「義仲をこの者で候ふ。只今、朝敵になり候ひなんず。急ぎ追討させ給へ」
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
「義仲はとんでもない烏滸(をこ。愚か)の者なれば、間もなく朝廷に仇なすことでしょう。すぐにも討伐すべきです」
後白河法皇はさっそく延暦寺や三井寺の僧兵たちを集めて臨戦態勢を整えます。
その様子を見た木曽方の者たちは「もはや義仲の命運も尽きた」と離反、信濃源氏の一族である村上三郎判官代(むらかみ さぶろうほうがんだい)まで後白河法皇に投降する始末。
「これこそ以つての外の御大事で候へ。さればとて、十善帝王に向かひ参らせて、いかでか御合戦候ふべき。甲を脱ぎ弓の弦をはづいて、降人に参らせ給へ」
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
「一大事にございます。しかし畏れ多くも朝廷に弓を引く訳には参りません。ここは素直に兜を脱いで弓の弦をはずして降参の姿勢を示されませ」
兼平が進言したものの、義仲は聞き入れません。
「我、信濃を出でし時、麻績、会田の軍よりはじめて、北国には砥浪山、黒坂、篠原、西国には福隆寺縄手、篠の迫、板倉が城を攻めしかども、いまだに敵に後ろを見せず。たとひ十善帝王にてましますとも、甲を脱ぎ弓の弦をはづいて、降人にはえこそ参るまじけれ……(中略)……これは鼓判官が凶害とおぼゆるぞ。その鼓め打ち破つて捨てよ。今度は義仲が最後の軍にてあらむずるぞ。頼朝が帰り聞かむところもあり。軍ようせよ、者ども」
※『平家物語』巻第八「鼓判官」より
「我は信濃を出てより各地で戦ってきたが、一度として敵に背を向けたことはない。たとえ朝敵となろうが一歩も退かぬ!」
「こんな事になったのは、あの鼓判官めのせいだ。あの野郎、打ち破って捨ててくれるわ。朝廷に仇なした以上、これが我らが最後の戦となろう。そのうち頼朝の耳に入るだろうから、恥じないよう悔いなく戦え!」
かくして義仲は後白河法皇の掻き集めた僧兵らを打ち破り、ついには後白河法皇を幽閉。京への一番乗りを果たしながら、鎌倉の頼朝に上洛の大義名分を与えてしまうのでした。