透ける小物を描くことで浮世絵師・喜多川歌麿が高めた浮世絵の表現力と芸術的価値

風信子

夏の暑さが続くと薄い素材の服を着たり、身の回りの小物をガラスや透明感のあるものにして、暮らしの中に涼感を取り入れたくなりませんか?

そういう感覚は昔からあったようで、透け感のある小物を使って生まれる不思議な美しさを表現した浮世絵師・喜多川歌麿(きたがわうたまろ)の作品をいくつかご紹介します。

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櫛を持つ女

 

上掲の絵のタイトルにもあるように女性が手にしている“櫛”。この透明感のある櫛の素材は鼈甲(べっこう)です。

鼈甲は出島を通して中国から輸入されていましたが、大変高価なものでした。そして鼈甲のなかでも黒い斑点のような模様のないものほど高級とされました。ということはこの櫛は鼈甲の中でも最高級品の立派な櫛です。

この絵の女性にとってこの櫛は初おろしなのかもしれません。櫛の透明感のある美しさを満足気に楽しんでいるようでもあり、櫛の歯を弾く音が聞こえてきそうです。

ちなみに女性が髪につけている簪や笄も、背後の髪の毛が透けて見えるので、鼈甲でしょう。

 

この女性の髪型は“燈籠鬢勝山”といいます。毛の一本一本が透けて見えそうなことから“燈籠鬢”と呼ばれました。

顔の両側に張っている鬢(びん)の部分に‘鯨のヒゲ’を熱して曲げて作った“鬢張り”を入れて、鬢に張りをだしているのですが、よく見ると鬢の一番張った部分にその鬢張りが入っているのが、縦にスッと一筋の線を描くことで表現されているのが分かります。

喜多川歌麿は絵の中に透明に透けて見えるものが存在することによって生まれる“不思議な美しさ”を理解していたのでしょう。

2ページ目 透かすことで女性の生命力や色気を表現

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