髪をまとめたり飾ったりする髪留めのことを「カチューシャ」といいます。
「カチューシャ」は、元々、ロシアに多い女性の名前エカテリーナの愛称でした。その名の由来となったのが、ロシアの文豪トルストイの『復活』に登場する主人公の名前カチューシャ。
1914年(大正3年)3月、この『復活』が、島村抱月によって舞台化されましたが、このときに主人公カチューシャを演じた人気女優だった松井須磨子が髪留めを頭につけて演じたことと、松井須磨子の歌う『カチューシャの唄』が大流行したことから、やがてカチューシャが髪留めを表す言葉として定着していったのでした。
ところで、皆さんの中には“エカテリーナ″がどうして“カチューシャ″という愛称にに!?」と疑問に思う方もおられるかもしれません。
実は、“エカテリーナ”(Ekaterina)というのは、ロシア風の名前ですが、ロシア語では“エカチェリーナ”という響きに近い発音になります。
この“エカチェリーナ”、ギリシア語の“Ekaterini”(エカテリニ)、“Katerina”(カテリナ)由来の女の子につけられる名前なのですが、英語では“Catharine” “Catherine”(キャサリン)、イタリア語では“Catarina”(カタリーナ)、“Caterina”(カテリーナ)にそれぞれ派生します。
ロシア語以外の言語では、最初のエがつかない形が多く、まず“カチェリーナ”という読み方になります。また、ロシア語の場合、愛称は最後に〝~シャ”で終わらる場合が多く、その結果、‶カチェーシャ″となったと考えられます。カチェーシャ″という響きが日本にやってきたとき、おそらく当時の人たちは“カチューシャ”と聞き取ったのでしょう。
以上の経緯から、日本では髪留めのことを「カチューシャ」と呼ぶのですが、それも日本国内だけのお話。同様の者を、イギリス英語では“hair band”、アメリカ英語では、“head band”と呼んでいます。
参考
- トルストイ 著 木村浩 訳『復活』(上・下)(2004 新潮文庫)
- 松井須磨子 “カチューシャの唄”