前回のあらすじ・平季武、産女の幽霊に遭遇!
「とある川の渡しに、夜な夜な産女の幽霊が出るらしい」
そんな「幽霊スポット」の噂を聞いて「俺が今から行って来てやる」と名乗り出た豪傑・平季武は夜更けに現地へ。「季武が腰を抜かすところを見届けてやろうぜ」と後からついて行った若武者たちは、とんでもない光景を目にすることに。
それは、季武の前に出現した産女の幽霊でした。
武士の肝試し:幽霊なんか怖くない?頼光四天王「平季武」の肝試しエピソード(上)
プロローグ・武士たちの肝試し夏の夜と言えば、怪談や肝試し。背筋がゾッと冷えて、暑気払いにもってこいの娯楽ですが、昔の人たちも怪談や肝試しに興じていました。今回は『今昔物語集』より、武士たち…
幽霊から赤子を奪取!季武の豪胆
「この子を抱きなさい……抱きなさい……」
原文「此レ抱ゝケ(これいだけ、これいだけ)」
泣きわめく赤子を差し出して呼びかける産女の幽霊。
常人なら魂消(たまげ)てしまうであろう事態を前にしても、毫も怯まぬ辺りはさすがの豪傑。
「さぁ抱いてやろうじゃねぇか、てめぇこの野郎!」
原文「イデ抱(いだ)カム、己(おのれ)」
そう季武が答えると、産女はすぐに
「この子だよ……ほうれ」
原文「此レハ、クハ」
と赤子を差し出すので、季武は赤子を奪い取るなり先を急ぎました。
これに慌てたのは産女の方で、まさか赤子を奪い去るとは思っていなかったようで、
「あぁ、その子を返して下さいな」
原文「イデ、其ノ子返シ令得(えしめ)ヨ」
と追いすがります。
奪われて悲しむくらいなら、そもそも差し出すなよ、とも思いますが、とにもかくにも季武はためらいもなく
「今は返せねぇよ。てめぇこの野郎!」
原文「今ハ不返(かえす)マジ、己」
と、そのまま川を渡り切り、泣き叫ぶ産女の声を聞き流し、赤子を抱いて帰って行きました。