幻の古代食『蘇』は食べる薬だった?
近年、大昔の食事を再現したグルメが根強い人気を持っていますが、奈良県を中心にお土産として販売されている古代の食品『蘇(そ)』があります。これは牛乳を加工して作られたものですが、これには壮大なドラマが秘められていたのです。
魚や野草が豊富で農耕民族でもあった我が国には、乳製品を食べる慣習はありませんでした。そんな日本に乳製品をもたらしたのが、仏教文化を伝えた渡来人でした。大陸の寒い地域では乳製品を多く食べますし、仏教を開かれたお釈迦様が信者から牛乳を寄付された逸話があるように、仏教に牛乳は付きものです。
多くの渡来人が日本に帰化した飛鳥時代は、朝鮮半島との交易や遣隋使などで大陸文化を取り入れた大和朝廷では、貴族を中心に牛乳を用いた『蘇』という食べ物が人気を博し、滋養薬としても食べられていました。
この時代きっての偉人として名高い聖徳太子は大陸の文物や制度を広く取り入れ、施薬院と呼ばれる施設で民生向上にも貢献したため、こうした乳製品を薬用として用いていたのは想像に難くありませんが、残念ながら当時の製法は伝わっていません。