福島正則(ふくしま まさのり)は、戦国時代から江戸時代の初めにかけて活躍した武将です。豊臣秀吉のいとこという縁もあり、若いころから多くの戦で手柄を立てた勇敢な人物として知られています。
しかし、そんな彼にはひとつ、大きな弱点がありました。それはお酒です。
※前編の記事はこちら↓
酒癖の悪さがすべてを狂わせた!名将・福島正則が家宝の名槍「日本号」を失った夜【前編】
家臣を死なせた、酒の上でのひとこと
ある日のことでした。正則は広島へ戻るため、家臣たちを連れて船に乗っていました。その道中、彼はいつものように酒をたしなんでいました。海風を受けながら杯を傾けるうちに、次第に気が大きくなっていきます。
そして、酔いがまわったころ、家臣のひとりである柘植清右衛門(つげ せいえもん)に、ふとしたことから腹を立ててしまいます。清右衛門は、日頃からよく仕える忠義者で、正則も信頼していた家臣の一人でした。それでも、酒の席で感情を抑えきれなかったのでしょう。正則は、勢いにまかせてこう言い放ってしまいました。
「切腹せよ」
それは、もしかしたら酔った勢いの冗談だったのかもしれません。あるいは、一時の怒りをぶつけたただの言葉だったのかもしれません。
しかし、清右衛門は違いました。主君の言葉は、たとえ酒の席のひとことでも命令と受け止める。それが武士の覚悟であり、忠義というものでした。彼は黙ってその言葉を受け入れ、その夜のうちに命を絶ってしまったのです。
翌朝、酔いがさめた正則は、清右衛門の最期を知って、声をあげて泣き崩れたと伝えられています。あれほど信頼していた家臣を、自分のひとことで死なせてしまった。彼の胸の内は、どれほど苦しかったことでしょう。
こうして、正則はその生涯で、ふたつのかけがえのないものを酒によって失いました。ひとつは、家の誇りであった名槍「日本号」。そしてもうひとつは、忠義に厚い家臣の命です。
そんな正則も、とうとうおこられて、領地を取り上げられてしまうという、大きな失敗をしてしまいます。
