薄毛は中高年男性の代表的な悩みと言えるのではないでしょうか。
近年の研究では、ハゲているほど男性ホルモンが強く、成功者が多いとも言われています。
……が、髪の毛が豊かであるのに越したことはないでしょう。
さて、いつの時代も笑いものにされがちなハゲですが、笑われたくらいでしょげているようでは能がありません。
という訳で、今回はハゲを笑われても毅然と対応した清原元輔(きよはらの もとすけ)のエピソードを紹介。『枕草子』で有名な、清少納言(せい しょうなごん)の父親ですね。
落馬したら、冠が……
今は昔、歌よみの元輔、内蔵助になりて、賀茂祭の使しけるに、一条大路渡りける程に、殿上人の車多く並べ立てて、物見ける前渡る程に、おいらかにては渡らで、人見給ふにと思ひて、馬をいたくあふりければ、馬狂ひて落ちぬ。年老いたる者の、頭をさかさまにて落ちぬ。君達あないみじと見る程に、いととく起きぬれば、冠脱げにけり。髻露なし。ただほとぎを被きたるやうにてなんありける……
※『今昔物語集』巻28第6話 歌読元輔賀茂祭渡一条大路語
今は昔し、清原元輔が内蔵助(くらのすけ)を務めていたころのこと。内蔵助とは朝廷の蔵を管理する役人で、スケとはその次官です。
さて、そんな元輔がある年の賀茂祭りで奉幣使(ほうへいし。天皇陛下より御幣を預かり、神社へ奉納する重役)を務めた折りでした。
その日は道が悪かったのか、乗っていた馬が転び、元輔は落馬してしまいます。
「あ痛てて……」
元輔が立ち上がると頭から冠が滑り落ち、ハゲ頭がむき出しになってしまいました。
当時、被り物が脱げて頭髪を露わにしてきまうのは、下着が脱げるくらいに恥ずかしいこととされます。
参考:頭髪を晒すのは無礼者!平安時代、冠や烏帽子を脱ぐのは下着姿になるよりも恥ずかしいことだった
「「「わっはっはっは……」」」
太陽の光に照らされた頭頂部はテラテラと輝き、見る者をして笑わせずにはおきません。
「旦那様、はやく冠を……」
主人が笑いものにされて忍びない下人は素早く冠を渡しますが、元輔は冠に目もくれません。
「旦那様?」
見ると元輔は笑った者たちに向かって演説を始めました。一体どういうつもりなのでしょうか。