榊原康政(杉野遥亮)が講義していた言葉の意味は?『論語』が説いた臣下の心得【どうする家康】

「子路、君に事えんことを問う。子曰く『欺くことなかれ。而して、これを犯せ』と」

※NHK大河ドラマ「どうする家康」第31回放送「史上最大の決戦」より

※劇中のセリフに「と」は入っていませんでした。しかし漢文で「曰(のたまわ/いわ)く」と始めた場合、必ず「と」を対に〆るので、ここではあえて入れています。

決戦を前にして、榊原康政(演:杉野遥亮)が若い武士たちに講義していたこの言葉。子路(しろ)という名前からピンと来た方がいるかも知れません。

これは孔子(こうし)の教えをまとめた『論語』の一節です。子路は孔子の弟子でした。

その意味するところは、劇中で説明があった通り「臣下たるもの、時として主君の意に添わぬことを諫言せねばならぬ時がある」となります。

そこで今回はこの教えの原文と、もう少し詳しい意味を紹介。大河ドラマの復習になるかも知れません。

主君も自分も欺くなかれ

子路問事君。子曰、勿欺也。而犯之。

※『論語』憲問第十四之二十三

【読み下し】子路、君に事(つか)えんことを問う。子、曰く「欺(あざむ)く勿(なか)れや、而(しこう)して之(これ)を犯せ」と。

【意訳】子路は主君に仕える心構えを孔子に尋ねた。孔子は答えた。「主君を欺いてはならない。そして主君の面子を犯してでも道理を正す意見をせよ」と。

主君を欺くとは、主君の機嫌を損ねないよう、道理に合わぬことでも迎合する態度を言います。

「さすがはご主人様。やることなすこと、何もかも最高です」

それで主君の機嫌はよくなり、あなたは褒美に与かれるかも知れません。少なくとも怒られることはないでしょう。しかし、それが中長期的に見て国家のためになるでしょうか。

主君の回りがおべっか使いばかりになり、誤った政道を正すことがなければ、民は苦しみ遠からず国は滅んでしまいます。

真の忠義とは目先の損得や自己保身ではなく、たとえ主君の面子をつぶしてでも諫言すること。それでたとえ処刑されようと、仕方ありません。諫言が主君のためになり、天下国家のためとなるなら、喜んで命を捨てるのが臣下のあるべき姿というものです。

……しかし、そんなことをしていたら、命がいくつあっても足りなさそうですね。少なくとも立身出世はできないでしょう。それでも主君を欺かず、自分自身を欺くなかれ。どこまでも理想主義を貫いた、実に孔子らしい教えと言えます。

2ページ目 孔子と子路のプロフィール

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