古今東西、老若男女貴賎を問わず、お風呂は裸(あるいはそれに近い姿)で入るものです。
それゆえに隙を生じやすく、昔から多くの者たちが入浴中の襲撃により命を落としてきました。
しかし中にはそんな絶体絶命の窮地を切り抜けた者もいるようで、今回は江戸時代の出羽鶴岡藩士・小寺信正(こでら のぶまさ。天和2・1682年生~宝暦4・1754年没)が収集した武士心得集『志塵通(しじんつう)』より、とある剣豪のエピソードを紹介したいと思います。
則ちその切たる腕を以て……
予が叔父の曰く。昔、剣術者湯を浴びしに、仇有人これを伺いて討ちしに、左の腕(かいな)の脈所を右の手にて持ち、左の手を以て受けしに、たまらずその腕を打落しに、則ちその切たる腕を以て、飛込みて敵を打倒しけることあり。当意即妙なりと申しけり。
※『志塵通』より
【意訳】これは私(作者)の叔父が話していたことである。
今は昔、とある剣豪が風呂を浴びていると、彼に恨みを持つ者が襲撃したそうな。この時、剣豪は何も持っていない。万事休す。