「鎌倉殿の13人」天が次に望むのは……第25回放送「天が望んだ男」振り返り

最初に一言。

「皆様。頼朝は”まだ”死んでいません

落馬したのが建久9年(1198年)12月27日、亡くなるのは年が明けて建久10年(1199年)1月13日となります。

SNSなどで「もう来週から頼朝はいない」というご意見が散見されたので、お含みおきいただけると驚かなくてすむでしょう。

さて、源頼朝(演:大泉洋)がついに落馬してしまいましたね。

その原因は病気(脳卒中、脳梗塞など)説をベースに、幻聴や身体の麻痺など怨霊説でも有り得そうな演出が見事でした。

偉大なるカリスマを喪った鎌倉は混沌の権力抗争に突入。物語は後半へとさしかかります。

血で血を洗う謀略と惨劇の連続に、きっと多くの視聴者が「頼朝のいた頃は良かったなぁ……」と思うはずです。

ではその前に、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第25回放送「天が望んだ男」を振り返って行きましょう。

藤九郎だけが見ていた、佐殿の落馬

自分の死ぬ夢に連日連夜うなされ続け、ろくに眠れぬ日々が続く頼朝。

「死にとうない」と助言を求められた阿野全成(演:新納慎也)は、鬼気迫る頼朝を恐れて口から出まかせを並べ立てます。

……が、必死な頼朝はそれらを真に受けてしまい、奇行を演じてしまうのでした。

平家の赤がよくないと言われれば、北条時連(演:瀬戸康史)の持ってきたホオズキに取り乱し、久しぶりの者との対面を控えよと聞いては千葉介常胤(演:岡本信人)や土肥実平(演:阿南健治)を邪険にあしらい……。

などなど猜疑心にとらわれ、孤独と狂気に侵された権力者の晩年をいかんなく描いていましたね。

しかしそんな頼朝もやがて吹っ切れたようで、将軍位を嫡男の源頼家(演:金子大地)に譲り、大御所として自由に生きることを決意。久しぶりに憑きものが落ちたような、晴れ晴れとした表情でした。

これからは大海を渡り、交易でも始めてみようか……などとようやく人生を前向きにとらえられるようになった矢先で、逃れ難く最期を迎えることになります。

視聴者の中には「あれだけ多くの人を殺したのだから、もっと地獄を見せてやるべきだ」との声もありましょう。

しかし頼朝は、物心ついた時から熾烈な権力抗争に巻き込まれて肉親と引き裂かれ、孤独に闘い抜いてきました。

時には非情な振る舞いも、過ちを犯したことも少なからずあったとは言え、そうやって生き抜いてきた地獄こそが彼の人生でした。

それがやっと人生を楽しめる……そんな希望を見出した瞬間、地の底へと引きずり込まれた頼朝の死が、穏やかなものであったとは言えないでしょう。

(もちろん、頼朝だけが可哀想だとも思いません。またどんな事情があれ殺された側にしてみれば怨み以外の何物でもありません)

「藤……九郎」

「佐殿!」

最後に(なるであろう)交わした主従の短い会話から、苦楽を共にした三十数年の歳月が偲ばれます。

2ページ目 比企と北条の確執

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