かつて「王」は殺されていた
かつて『金枝篇』という書物でJ.G.フレーザーが取り上げた習俗に、有名な「王殺し」というのがあります。
これは特にアフリカでよく見られたという古い習慣で、ある地域の権威者である王が病気や老齢で生命力の衰えを見せた時、伝統的なやり方で殺害あるいは自殺によって命を絶たれるというものです。
もともとこうした王の多くは神とイコールであり、あるいは神と通じるシャーマンとしての性格を持っていました。よって彼らは天候や季節などの自然を支配する存在で、土地の肥沃、国土の豊穣、人々の生活に対して責任を負っていたのです。
「王」でなくても、自然の運行に対して責任を負うシャーマンが、天候の変化に対する責任を負って殺されたり、あるいは生贄として捧げられたりする習俗というのは世界各地に存在したようです。もちろん日本も、無かったという証拠はありません。
今回はそんなお話になります。
晴れないと「顔なし」のまま斬首!
「てるてる坊主」のことは、皆さんよくご存じだと思います。子供の頃に、ティッシュで作ったという方も多いのではないでしょうか?
実はあのてるてる坊主の歴史も古く、江戸時代の書物に「のっぺらぼうのてるてる坊主つるして」という記述があるそうです。のっぺらぼうなのには理由があり、墨などで顔を描いてしまうと雨でにじんでしまうからだそうです。にじむと泣き顔のようになり、かえって雨を呼び寄せてしまうんですね。
そして、雨が上がって晴れ空になれば、文字通り「晴れて」顔が描き込まれます。その後、神様に供えるお酒を添えて川に流すというのが、てるてる坊主の正しい作法でした。
願掛けがうまくいったら顔を描き込むという点は、ダルマの瞳入れを連想しますね。また川に流すというやり方も、おひなさまの風習と似ています。現代でこれを真面目にやるとしたら、川に流すと環境破壊になるのでゴミとして捨てるか、あるいは寺社でお焚き上げをするということになるでしょう。
さてそれでは、空が晴れずに雨降りのままだった場合、てるてる坊主はどのような運命をたどるのでしょうか? それは、「首をチョン切る」なのです。
そんなバカな、残酷すぎる……と思われる方もいるかも知れません。しかしこれはごく一般的なやり方なのです。実際、有名な童謡『てるてる坊主』でも、「それでも曇って泣いたなら そなたの首をチョン切るぞ」と三番の歌詞に書かれているのです。
この、意外に残酷なてるてる坊主という風習は一体どのような由来を持つのでしょうか?