武士の身分を剥奪、首級を晒され…明治時代、日本の法律整備を急いだ江藤新平の最期

激動の幕末維新を乗り越えて時は明治。西欧列強に肩を並べるべく近代化を推し進めていた日本にとって、きちんとした?ルールの整備はすべての基本となるものでした。

明治新政府で司法制度の整備を担当した元佐賀藩士・江藤新平(えとう しんぺい。天保5・1834年生~明治7・1874年没)はフランスの民法を採り入れるべく、その翻訳に取り組むのですが……。

「誤訳も亦妨げず、唯速訳せよ」

「文中にある『フランス』を『日本』に置き換えるだけでもよいから、とにかくすぐに訳すのだ!」

新平はフランス民法の翻訳に際して巧遅よりも拙速を貴ぶ方針をとり、しばしばそう発破をかけたそうですが、現実にはそんな簡単にはいかないものです。

「そうはおっしゃいますが、日本語とフランス語では微妙なニュアンスが違いますし、そのまま適用するのはトラブルの元になりかねません」

「そうです。日本の根本ルールとなる民法だからこそ、充分な時間をかけてでも間違いのないように翻訳すべきではないでしょうか」

翻訳に当たっていた官僚たちは口々にそう言いますが、新平には新平の考えがありました。

「誤訳も亦(また)妨げず、唯速訳せよ」

【意訳】多少のミスを気にすることなく、とにかく早く翻訳しなさい!

そもそも人間が完璧でない以上、その人間が作ったルールなんて不備があって当然。たといそれを完璧に翻訳できたところで、その不備を忠実になぞるだけ……つまり翻訳は巧みであっても、世の役には立たない自己満足に終わってしまいます。

ルールなんてものは実際に使っていく中で改良・洗練されていくものですから、まずは最低限使える状態にまでは仕上げなくてはお話しになりません。

「どんな形でも、とりあえず日本語にさえしておけば、みんながツッコミを入れて改善しやすくなるだろう」

民法の概念を逸早く世に広め、実際に運用することでフィードバックを集め、より日本の実情に即した形に作り上げていく第一歩としての翻訳ですから、大事なのは「ミスがないこと」よりも「みんなが理解して運用し、改善できるようにすること」なのです。

「自分たちが完璧な翻訳を成し遂げようとするのではなく、天下万民が法律の概念を理解し、力を合わせてよりよい社会を作っていく意識を醸成することこそ、我々にとって真の功績と言えるだろう」

「「「はい!」」」

自分だけがいいカッコをするより、みんなが参加できる公正な社会を目指す新平の理想に共感した官僚たちは、夜を日に継いでフランス民法の翻訳に心血を注ぎ、ついに完成させたのでした。

3ページ目 踏みにじられた新平の理想

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