猿の顔に狸の胴体、手足は虎で尻尾は蛇……中世日本のモンスター・鵺(ぬえ。鵼、恠鳥、奴延鳥など)。
『平家物語』や『源平盛衰記』など様々な文献に登場し、夜な夜な不気味な声(※)で啼いては人々を脅かしたと言います。
そんな鵺の正体はトラツグミと考えられており、夜間「ヒィー、ヒィー」「ヒョー、ヒョー」などと啼く様子は、確かに薄気味悪いですね。
今回は、この鵺を退治した源頼政(みなもとの よりまさ)にまつわるエピソードを紹介したいと思います。
清涼殿に怪鳥あらわる
時は平安、第76代・近衛天皇の御代、仁平(西暦1151~1154年)ごろのこと。天皇陛下のお住まいである清涼殿(せいりょうでん)に、突如黒煙が湧き起こって鵺が出現。何か笑っているような、あるいは苦しみ喘いでいるような啼き声が辺りに響きわたります。
「何とも奇怪な……これは朕の政治に、過ちがあるという報せなのか、それとも天変地異の凶兆か……?」
近衛天皇は思い当たる限りの改善を試みましたが、鵺の啼き声がやむことはなく、あまりに毎晩続いたため、気に病んだ近衛天皇は体調を崩されてしまいました。
「このままでは帝が心配だ……何か、良い手はないものか?」
祈祷をさせても薬師を呼んでも効き目がなく、困り果てた朝臣らは、かつて似たような事例があったことを思い出します。
「そうだ。寛治(西暦1087~1094年)のころ、堀河天皇(第73代)が鵺に悩まされた折、武士に弓弦を鳴らせしめて魔物を追い払った(※)と言うではないか。此度もそれが有効であろう」
(※)弓に矢をつがえず射放ち、弦が空を切る音が魔除けになると信じられました。鳴弦(めいげん)または弦打(つるうち)とも言います。
そこでさっそく当代随一の名手であった源頼政が呼び出され、清涼殿の警護をすることになりました。
「得体の知れぬ物怪(もののけ)を退治するなど及びもつきませぬが、陛下のお召しとあらば最善を尽くさぬ訳には参りませぬ」
郎党の猪早太(いの はやた)と共に時を待つ頼政の前に、やがて黒煙と共に鵺が出現します。
「南無八幡大菩薩、我が生死は度外のこと、願わくは帝を安んぜんがため、この矢を射当てさせ給え……!」
頼政は満月の如くギリギリ弓を引き絞り、矢をびょうと射放った次の瞬間、ドスとの音と共に、鵺の身体へ矢の突き立ったのが見えました。
「得たりや、応!」