武士道といふは、死ぬ事と見付けたり……。
※『葉隠』第一巻より。
とかく武士は死の覚悟を求められたものですが、それは自分が死ぬばかりでなく、誰かを死なしめることも意味します。
戦国乱世も遠い昔となった江戸時代にあってなお、武士たちは時として腹を切り、それを介錯(かいしゃく)するなど、命をやりとりしたものでした。
介錯とは本来、手助けの意味ですが、ここでは切腹した者が長く苦しまぬよう、首を斬ってトドメをさしてやることですが、ただ首を斬ると言っても、ただ無造作に刀を振り下ろせば事足りる訳ではなく、少しコツがあったようです。
今回は武士道のバイブルと言われる『葉隠(はがくれ。葉隠聞書)』より、切腹する者の首を斬る介錯のコツを紹介したいと思います。
こちらの記事も合わせてどうぞ
老人の繰り言と侮るな!武士道のバイブル『葉隠』が説いた、経験を伴う言葉の重み
……とかく老人というものは繰り言(くりごと)が多く、若者たちから疎まれがちです(もちろん例外もありますが)。「お爺ちゃん、そんなことくらい知ってるよ」「お婆ちゃん、その話はもう聞き飽き…
過ちに対する意見を聞き入れてもらうには?武士道のバイブル『葉隠』が示した人間関係のコツ
古来「良言、耳に逆らう」などと言うとおり、過ちに対する諫言や意見というものは、言われる側にしてみれば自分を否定されたような気がして受け入れにくいのが人情です。一方、言う側にしても相手が受け入れ…
武士は刀のごとくあれ!武士道のバイブル『葉隠』が説く自制心と勇気の教え
古来「刀は武士の魂」などと言われますが、江戸時代に入ると大小二本の差料が武士の象徴とされたことは、歴史の授業で「苗字帯刀(※)」と教わった通りです。(※)ただし、町民・農民であっても護身のため…
野田喜左衛門の言うことには……
一六 介錯仕様野田喜左衛門咄の事
死場にて正気なく這ひ廻り候者を、介錯の時多分仕損じあるものに候。
左様の時は先づ相控へ、何事にてなりとも力み候様に仕り、すこしすつくとなり候處をのがさず切り候へば、仕済し候と承り候由なり。※『葉隠』第七巻より。
【意訳】介錯のコツについて、野田喜左衛門(のだ きざゑもん)が話したこと。
「いざ切腹の場に臨んで、命が惜しくなって這いずり、逃げ回る者を無理に斬ろうとすると、多分に失敗してしまうものである。そういう時は、とりあえず騒ぐだけ騒がせておいて、ふと我に返った瞬間を逃さず斬ると失敗しない」と聞いたそうである。
※文末が伝聞調なのは、作者の山本常朝(やまもと じょうちょう)が、野田喜左衛門から聞いた話を、田代陣基(たしろ つらもと)に書きとらせているためです。