古来「職人気(しょくにんっけ。創作意欲)と泥棒気(どろぼうっけ)のない者はいない」と言われるように、いけないと分かっていても他人のモノを盗んでしまう難儀な人物が、残念ながら社会の中で一定数はいるものです。
とうぜん平安時代にも泥棒や強盗は横行していたのですが、彼らがどんなモノを盗んでいたのか、また被害額(犯人にとっての稼ぎ)はどれくらいのものだったのか、実に興味深いところです。
そこで今回は、当時の記録から平安時代の犯罪事情について紹介したいと思います。
平安京を騒がせた、10人の犯行データ
時は平安時代の長徳2年(996年)12月17日、京都洛中・左京の獄舎にこんな囚人たちがいたそうです(これで全員という訳ではなく、この日に判決が出た者とのこと)。
大春日兼平(おおかすがの かねひら)
生年:天暦元年(947年。50歳)
出身地:山城国(現:京都府東部)
罪状:強盗
盗品:7種類
被害金額:銭730文(※)相当
量刑:布6反4丈を盗んだ罪に換算
判決:流刑
盗品内訳:
一、弓×1張(銭30文)
一、胡籙(やなぐい。矢入れ)×1腰(銭50文)
一、抜手綿(ぬきでわた。上着や布団から抜いた綿)×1領(かたまり。銭30文)
一、麦×5斗(=500合。銭250文)
一、麻布×2反(銭150文)
一、手作布(自家製の布)×3丈5尺(銭250文)
一、用紙×50帖(半紙にして1,000枚。銭50文)
(※)内訳と合計が合わない。誤記か?
岩松(いわまつ)
生年:天徳3年(959年。38歳)
出身地:讃岐国(現:香川県)
罪状:強盗
盗品:4種類
被害金額:銭4貫200文相当
量刑:布2反2丈を盗んだ罪に換算
判決:流刑
盗品内訳:
一、絹×2疋(疋≒2反。銭4貫)
一、菊色単衣(きくいろのひとえ)×1領(1着。銭50文)
一、白単衣(しろのひとえ)×1領(銭50文)
一、麦×2斗(200合。銭100文)
清原延平(きよはらの のぶひら)
生年:天禄3年(972年。25歳)
出身地:山城国
罪状:強盗
盗品:2種類
被害金額:銭5貫200文(※)相当
量刑:布31反3丈6尺4寸(細かっ!)を盗んだ罪に換算
判決:流刑
盗品の内訳:
一、白布帯×1腰(本。銭50文)
一、銀銚子(しろがねのちょうし。酒器)×1口(銭5貫200文)
(※)これも合計が内訳と違うが、白布帯は(銀銚子に比べ)安すぎてカウントから抜け落ちた?
藤井国成(ふじいの くになり)
生年:天徳4年(960年。37歳)
出身地:大和国(現:奈良県)
罪状:強盗
盗品:3種類
被害金額:銭7貫500文相当
量刑:布60反1丈3尺3寸(※)を盗んだ罪に換算
(※)14反3丈と追記されている。後から何か発見されたか?
判決:流刑
盗品の内訳:
一、銀造太刀(しろがねづくりのたち)×1腰(銭5貫)
一、馬×1疋(頭。銭1貫500文)
一、米(よね)×1石(1,000合≒約150㎏。銭1貫)
田辺延正(たなべの のぶまさ)
生年:康保4年(967年。30歳)
出身地:左京(現:京都市左京区)
罪状:強盗
盗品:7種類(原文は「漆種」。漆は七の別記)
被害金額:銭76貫300文相当
量刑:布613反2丈&14反3丈(追記)を盗んだ罪に換算
判決:流刑
盗品の内訳:
一、絹×137疋(銭37貫)
一、綾(あや。高級な絹)×7疋(銭28貫)
一、直垂(ひたたれ。武士の平服)×1領(銭3貫)
一、褂(うちき。肌着)×11領(銭5貫500文)
一、胡籙&箭(や=矢)×3腰分(銭1貫500文)
一、黒作太刀(くろづくりのたち)×1腰(銭500文)
一、手作布×2反(銭800文)
津守秋方(つもりの ときかた)
生年:康保4年(967年。30歳)
出身地:山城国
罪状:強盗
盗品:1種類
被害金額:銭100文相当
量刑:布4丈2尺3寸を盗んだ罪に換算
判決:徒刑(ずけい。懲役)4年
盗品の内訳:
一、釜×1口(銭100文)
2ページ目 犯罪でも「仕事ができるorできない」の差は顕著に