「日本の女性は、とても奥ゆかしくて素敵ですね!」
昔、知り合った外国の方がそんなことを言っていましたが、同胞を褒められた喜びもさることながら、日本人でも最近あまり使わない「奥ゆかしい」という言葉が出てきたことに驚きました。
ところで、この「奥ゆかしい」という言葉、何となく「おしとやかで、控えめな女性」をイメージさせ、似通ったイメージのものに対して使うものの、その定義がハッキリわからない方も多いはず。
そこで今回は「奥ゆかしい」という言葉の由来について紹介したいと思います。
もっと「奥へ行って、知りたい」気持ち
「奥ゆかしい」という言葉は「ゆかし」に由来しており、漢字で書くと「行かし」となります。
「もっと行きたい(行きたくなる)」という興味深い様子から、奥ゆかしいとは本来「もっと奥へ行って、いろいろ見たい!知りたい!やってみたい!」という好奇心を表わしていました。
人物でイメージするなら、おしとやかで控えめな「大人の女性」よりも、好奇心いっぱいで何でも知りたがる「元気な子供」といったところでしょうか。同じ「奥ゆかしい」という言葉でも、昔と今ではずいぶんとイメージが違ったようです。
それが時代の下るにつれて「好奇心をそそる様子」を指すようになり、もっと知りたくなるような控えめさを奥ゆかしさと呼ぶようになります。
「なかなかなまめかしうおくゆかしう思ひやられ給ふ……」
※『源氏物語(第10帖 賢木)』より
【意訳】かなり上品に洗練され、心惹かれる魅力を持った方なのだろうなと思われる……
押してダメなら引いてみろ、ではありませんが、猛烈にアピールしてくるよりも、ちょっと控えめなくらいの方がより興味を惹きつけるのは、今も昔も変わらないようです。
終わりに
言葉の意味が時代によって変わってくるのはよくあることですが、今回の「奥ゆかしい」もまた、昔と今では大きくイメージが違っていました。
千年以上の歳月をかけて変わってきた「奥ゆかしい」という言葉が、千年後にどのような意味で使われているのか、そんな歴史の移ろいに思いを馳せるのも、また奥ゆかしい楽しみと言えるでしょう。
※参考文献:
岡本梨奈『かなり役立つ!古文単語キャラ図鑑』新星出版社、2019年1月