これまで“江戸を生きる人々の1日のタイムスケジュールはどうなっていたか”についてご紹介してきました。今回は“午前1時頃~午前3時頃”の江戸の様子を見ていきましょう。
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お江戸のタイムスケジュール バックナンバー
夜八つ(午前1時頃から午前3時頃まで)
午前1時と言えば真夜中です。人工的な灯りがほとんどない江戸の町で、頼りになるのは月のあかりぐらい。提灯を持たなければ外は歩けません。
昔も今も真夜中は強盗などの犯罪や、火事などが起こる可能性が高まります。
江戸の夜では不意打ちで相手を刀で斬り殺す“辻斬り”が横行しました。中には自分の刀の試し切りのために辻斬りをするなどという現代では信じがたいこともありました。
当時は武士など日本刀を持つ人間と、何も武器を持たない普通の町人が、同じ町中を行き交っていたのですから、冷静に考えてみると恐ろしいことではありませんか。
上掲の浮世絵に描かれた「白井権八」は、鳥取藩の武士“平井権八”という人物の話を元に描かれたものです。
訳あって鳥取から江戸へと逃亡してきた平井権八は、やがて評判の高い“遊女小紫”と昵懇となり来世をも誓い合う仲となりました。しかし身請けどころか吉原に通うお金にすら困り、ついには金品を盗み取るために“辻斬り”をして130人を斬り殺してしまいました。
最後には平井権八は鈴ヶ森刑場で処刑され、遊女小紫は権八の墓前で自害しました。この話が話題となり歌舞伎や浄瑠璃で“白井権八”として多く上演されたのです。
このような“辻斬り”の横行を防止するために、大名や旗本たちによって“武家地警備”として辻番所が設けられ“辻番”が武家地を巡回するようになりました。
江戸の町の自治組織
この絵の中央に“木戸”があり、その右側には木戸の開け締めの番をする「木戸番」の小屋が描かれています。
「木戸番」については“日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その8】/町中の木戸が閉じられる” でご紹介しておりますので御覧ください
そして門の左側に描かれているのは、「自身番」と呼ばれる人たちの詰所である「自身番所」です。「自身番」とは町の家主を含めた3人から5人で構成され、交代で“町内警備そして自治”にあたりました。
上掲の「自身番所」には槍のようなものが描かれていますが、自身番は町内を巡回し不審者がいれば捕らえて奉行所に報告したのです。
上の絵は“自身番所”の前にいる二人の人物を描いています。右側の先端に輪のついた鉄棒をもった人物が「自身番」です。この鉄棒を地面に突いて“チャリン、チャリン”と鳴らしながら夜の町を見廻りました。
もう一つ自身番には「火の番」という重要な役目もありました。上掲の絵にあるように自身番所の前には水を蓄えた桶や提灯・纏などが描かれています。そして最初にご紹介した「類聚近世風俗志」の“木戸番小屋”には小さな“火の見櫓”が描かれています。
いざ火事が起こると、火消人足たちは自身番所に集まり火消しの道具を持って火事場へと向かいました。
そして木戸番は火事を告げる半鐘を鳴らしたのです。
このように木戸番と自身番は協力しあって江戸の町の安全を守っていました。