刺客となった悲劇の皇后!日本神話のヒロイン・狭穂姫命と兄の禁断の関係【中】

前回のあらすじ

刺客となった悲劇の皇后!日本神話のヒロイン・狭穂姫命と兄の禁断の関係【上】

本当はあの人が好きだけど、諸事情からこの人と結婚した(せざるを得なかった)……そんな話は古今東西いくらでもあり、できればみんな幸せになって欲しいものですが、世の中には結ばれてはいけない関係も存在します…

垂仁天皇(すいにんてんのう。第11代)の皇后・狭穂姫命(さほびめのみこと)は、皇位を狙う実の兄・狭穂彦王(さほびこのみこ)に、垂仁天皇を暗殺するよう持ちかけられます。

よき夫として垂仁天皇を愛していながら、兄とも婚前からの恋情を通じ続けていた狭穂姫命は、悩んだ末に兄の依頼を承諾。

そんな事とは露知らず、垂仁天皇はいつものように狭穂姫命と戯れ、彼女の膝枕で眠ってしまいました。

手を下すなら、今こそ絶好のチャンス。狭穂姫命は兄から受け取った短刀の鞘を、音もなく払ったのでした……。

愛する者を裏切ってしまった悲しみ

自分の膝で安らかな寝息を立てている垂仁天皇の首筋に白刃を突きつけた狭穂姫命。あとはこの手を一尺ばかりも下ろすだけ。それで、愛する兄の野望が果たされる……。

(さぁやれ……やるんだ!)

脳裏をよぎる兄の顔と声。そうだ、自分はこの夫への貞操よりも、兄への愛を選んだではないか。今さら後戻りなど、出来る訳がない……。

勇気を振り絞って短刀を振り下ろそうとする自分と、それを押しとどめる自分がせめぎ合うこと三度、垂仁天皇がふと寝言を口にしました。

「姫よ……愛しき我が姫君よ……」

今まさに自分がその「愛しき我が姫君」に刃を突きつけられていようとは、夢にも思ってはいないでしょう。とても安らかで、愛情と信頼に満ちた笑みを浮かべています。

(……やっぱりだめ!こんなにも深く私を愛し続けて下さった、この世に二人といない素敵な背の君を、我が手にかけてしまうなんて……!)

確かに兄・狭穂彦王への慕情は止めようがなく、最愛だったとは言えないかも知れない。それでもやはり、垂仁天皇の深い愛情を裏切ることは出来ませんでした。

「主上、申し訳ございませぬ……!」

兄と夫、そのどちらも裏切ってしまったことを恥じて、狭穂姫命は涙を流してしまいました。

2ページ目 垂仁天皇の見た夢と、どこまでも深い愛情

次のページ

この記事の画像一覧

シェアする

モバイルバージョンを終了