前回のあらすじ
前回の記事はこちら
ゲスの極み!鬼畜の所業!平貞盛が自分の孫を殺そうとした理由がエゴすぎる【上編】
丹波の国司・平貞盛(たいらの さだもり)は不治の病を患い、その特効薬として胎児の肝臓である「児干(じかん)」を求めます。
息子・左衛門尉(さゑもんのじょう)の妻が妊娠していると聞いた貞盛は、さっそく妻子の命を差し出すよう、家来の判官代(ほうがんだい)とグルになって脅迫するのでした。
どうにか妻子を助けたい左衛門尉が医師に助けを求めたところ、医師は「年寄りのエゴで未来ある若い命を失うのは忍びない」と、貞盛に対して一策を講じるのでした。
罪なき女性を無惨に殺し、その腹の子を……
「……何と!?」
「堪忍なぁ、あんまり血筋が近い者ン同士の生き肝やと効かへんのや。それと……医者がこう言うのも何やけど……あんさん、もう『お迎え』もそう遠ぉないんやし、この期に及んであんまり殺生すんのも……」
「やかましい!何が何でも赤子の生き肝を手に入れるゆえ、そなたは黙って薬を処方すればよいのじゃ!」
もはや聞く耳を持たぬ貞盛のこと、これ以上の諫言は医師の命にも関わります。
「……さよか。ほんならもう一つ。赤子の生き肝は必ず同性、つまりあんさんに処方する場合は男の子のモンでないと効かんちゅうこっちゃ」
そう聞いた貞盛はさっそく判官代に命じて近郷じゅうの女という女を調べさせ、ついにとある飯炊きの下女が妊娠六ヶ月だという情報を入手。
「でかしたぞ!さっそくその女子(おなご)より、腹の赤子を貰(もろ)うて来るのじゃ!」
「……ははあ、直ちに」
判官代はご褒美ほしさに躊躇いなく下女を殺し、その腹を掻っ捌いて中の赤子を取り出しましたが、その子は女の子でした。
「何じゃ……これでは褒美に与れん。ちぇっ、こんなもん、狗っころにでもくれてやらぁ!」
血まみれの赤子を投げ捨てた判官代は、さっさと帰って事の次第を貞盛に報告。それでも執念深く児干を求め続け、どうにか手に入れたそうですが、それまでに何人の妊婦が判官代の手によって殺されたのか、『今昔物語集』には記録が残されていません。