梅が満開の季節になりました。梅といえば、泣く子も黙る新選組鬼副長、土方歳三を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。歳三さんは梅が好きで、多く俳句に詠んでいたからです。
今回は彼が京都に向かう前、江戸で剣術修行に励んでいた頃の句集「豊玉発句集」の中から、梅にちなんだ句だけを選り抜きご紹介します。
豊玉発句集の梅の句5選
「年々に折られて梅のすがた哉」
こちらは色んな解釈ができる句です。
どこかで見事な梅が咲いていて、通りかかる人々が、
「あ、咲いてる。部屋に飾ろう」ポキッ。「まあ、綺麗な梅。家族に見せてあげましょう」ポキッ。・・・という具合にポキポキ折って持って帰るので、なんとも切ない姿になってしまった、という解釈が1つ。こんな事で胸を痛めている歳三さんが後に鬼の副長と呼ばれ、新政府軍相手に大戦をかますなんて、考えられませんね。
もしくは、毎年色んな人に枝を折られて野生にはない味のある姿に成長した梅のたくましさに感銘を受けた、というふうにポジティブに解釈する方が歳三さんの心境に近いかもしれません。
「咲きぶりに寒げは見えず梅の花」
梅が満開を迎える二月〜三月初旬は、春を迎えたとはいえ、まだ肌寒い季節。歳三さんが寒空の下見事に咲き誇る梅をしげしげと眺めながら、
「梅よォ、てめえ咲いてて寒かねえのか」 「・・・」
「そっか、寒くねえか!良かったな!俺もてめえの咲きっぷりを見てるとなんだかぽかぽかしてくらア」
「・・・」
「ったく可愛いな、てめえは」
なんてこっそり梅の木に話しかける姿が浮かんで来るような一句です。
「人の世のものとは見へず梅の花」
どんだけ梅の花リスペクトしてるの!?と聞きたくなる梅の花シリーズ。そのくらい梅が大好きな歳三さんですが、その中でも抜きん出てものすごく美しい白梅に出会ったのでしょう。身分によって人間の価値が分けられていた江戸時代、武士になりたいと願ってもままならぬもどかしい思いの中で、人の汚さや醜さを嫌というほど味わっていた歳三さんだからこそ、凛と澄んだ白い梅に不思議な感動を覚えたようです。
「梅の花壱輪咲ても梅はうめ」
さて、こちらは豊玉発句集の中でも最も有名な句の一つではないでしょうか。ものすごく良い句!というわけではありませんが、何かのキャッチコピーみたいに1度聞いたら頭から離れません。
そのまんまというか、深いような、深くないような、読み手によって意味を持ったり持たなかったりするこの句。俳句の世界では、豊玉発句集の中でも出来がよくない句とされています。しかしファンが惹かれるのは、やはりこの句に表れた歳三さんのまっすぐさと親しみやすさなのでしょう。
「梅の花咲る日だけにさいて散る」
発句集の最後を飾る句。
この句を残して、歳三さんは京へ旅立ち、新選組の鬼副長へとなってゆくのです。そう考えると、彼の覚悟がよく表れた真面目すぎるくらいに実直な句なのではないでしょうか。この句の通りに、歳三さんは幕末の世に咲き誇り、江戸幕府とともにその生命を散らしたのです。