万葉集はさまざまな歌が収められていますが、やはり読んでいて共感しやすいのは「恋」をテーマにした歌ではないでしょうか?
はるか昔に詠まれた歌なのに、どこかシンパシーを感じる……。同じような恋のドキドキ感や苦しみを感じている、という方も多いかもしれません。
そこで、今回の記事では、万葉集のなかの歌をひとつご紹介します。万葉人(まんようびと)の複雑な恋心を見ていきましょう。
万葉集とは?簡単におさらい
『万葉集』は、全20巻、約4500の歌が収められた日本最古の歌集です。7世紀後半から8世紀後半にかけて編さんされたと言われています。特徴は、天皇や貴族といった地位の高い人から、農民など一般の人まで、作者が幅広いこと。
また、日本各地が歌が詠まれた舞台となっています。ちなみに、恋の歌は「相聞歌(そうもんか)」と呼ばれ、割合としては万葉集全体の約半数を占めています。
今回ご紹介する歌
今回ご紹介する味わい深い歌は、巻の6―964の歌です。「我が背子(せこ)に 恋ふれば苦し 暇あらば 拾ひて行かむ 恋忘れ貝(こいわすれがい)」というものです。
作者は大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)。「背子」は女性が夫や恋人に対して親しみを込めて言う言葉で「あの人」という意味があります。
現代語訳は「あの人に恋焦がれるのは苦しくて仕方がない。旅の途中で暇があれば、恋忘貝を拾っていきたい」といったところです。
大伴坂上郎女は、大伴旅人の異母妹にあたる人物で、妻を亡くした旅人の身の回りを世話するために旅人とともに大宰府にいました。
しかし、旅人が上京することになり、大伴坂上郎女も彼の家来とともに一足先に大宰府を去ることになりました。この歌は、その旅路で詠まれたとされています。