もし皆さんが人を雇っているとして、その方が退職を願い出た時、皆さんならどう対応しますか?
引き留めたり、快く送り出したりなど状況により様々と思いますが、この時の態度で経営者としての器量が示されるものです。
今回は戦国大名・藤堂高虎(とうどう たかとら)のエピソードを紹介。果たして彼は、去りゆく家臣にどう接したのでしょうか。
送別会にて
「何、暇乞いとな」報告を受けた高虎は、家臣に面会します。
「行くあてはあるのか」
「は、ドコそこに伝手がございまして」
普通「他家(他社)へ移籍する」と聞けば、相対的に「当家が劣っていると言うことか」と感じてしまい、あまり気分もよくないもの。
あーそうかい、だったらサッサと出ていくがよい。せいぜいご活躍を祈念いたします……など捨て台詞を吐きたくなるかも知れません。しかし高虎はそんなこと言わず、翌日に送別会(茶会)を開いて送り出します。
「餞別に太刀などとらせよう。存分に腕を奮うがよい」
「ありがたき仕合わせ。この御恩、生涯忘れませぬ」
お土産を持たせるだけでもなかなか太っ腹なのに、高虎は更に付け加えました。
「もし再仕官先が肌に合わなんだら、戻って参れば今と同じ禄高で召し抱えよう」
いつ出ていくのも自由だし、いつでも帰ってきていいよ。なかなかそんなことを言ってくれる職場はありません。
「……まことにございますか?」
「あぁ、約束する。何なら証文も書いてやろうか?」
旅立って行った家臣たちの中で、実際に戻って来た者には約束通り以前の禄高で再雇用したと言うから大したもの。去る者は追わず、来る者は拒まない高虎の器量は広く天下に知れ渡ったということです。