「生水(なまみず)に気をつけるんだよ」
ふた昔し、み昔しくらい前は、よくそんな事を耳にしました。
ピンと来ない方向けに説明すると、生水とは川や井戸などからくんだままの(沸騰させない)水のこと。キレイに見えても細菌や寄生虫など、時には生命を脅かす危険があります。
だから飲む前に必ず沸騰させるのが鉄則。しかし見ただけでは分からないため、うっかり飲んで大変な事態を招くことも多かったようです。
そこで今回は鎌倉時代、生水が原因で生命を落とした北条時子(ほうじょう ときこ)のエピソードを紹介。果たして、どんな最期を遂げたのでしょうか。
不義密通を疑われ……
北条時子は生年不詳、後に鎌倉幕府の初代執権となる北条時政(演:坂東彌十郎)の娘として生まれました。
名前は時子と伝えられているものの出典は不明。時政の娘だから政子(演:小池栄子)と名付けられた姉妹と同じ要領でそう呼ばれるようになったのでしょう。
そのためか、政子の姉(先に生まれたから時政の時を名前につけた)という説もあるようです。
時子は治承5年(1181年)2月1日、下野国(現:栃木県)の御家人・足利義兼(あしかが よしかね)に嫁ぎました。
……足利三郎義兼嫁于北條殿息女……
※『吾妻鏡』治承5年(1181年)2月1日条
文治5年(1189年)には嫡男・足利義氏(よしうじ)を生んだほか、子宝に恵まれたものの、やがて彼女を悲劇が襲います。
夫の義兼が鎌倉へ出仕していたある日、喉の乾いた時子が侍女の藤野(ふじの)に汲ませた水を飲みました。すると腹がふくれ出し、たちまち妊婦のようになってしまったのです。