「それは管轄外です」
お役所仕事に代表されるタテ割り組織の象徴的なこのフレーズ、皆さんも一度ならず耳にしたことがあるでしょうか。
特に面倒な案件についてはたらい回しにされることがほとんどで、誰でもいいから早く対応してくれと思ってしまいます。
そんな組織体質は昔から変わらなかったようで、今回は平安時代におけるお役所仕事の事例を紹介。被害を受けていたのは、一般庶民だけではなかったようです。
ハレの即位礼……なのに門が開かない!
時は平安中期の天慶9年(946年)4月28日。成明(なりあきら)親王が御即位あそばされました。後世に言う村上天皇(むらかみてんのう。第62代)の誕生です。
「陛下の、おなーりー!」
さぁ、これから新しい御代が幕を開ける……そんなハレの即位礼で、アクシデントが起こってしまいます。
「申し上げます……門が、門が開きませぬ!」
式典に際して、陛下が通られる門が開かないというのです。そんなことがあるものか、門がぶっ壊れでもしたのかと確かめさせたところ、別に門自体に異常はありません。
そこには門の開閉を管理する伴(とも)氏と佐伯(さえき)氏もちゃんと待機しているのに、一体どういうことでしょうか。
ちなみにここで言う氏(うじ)とは個人名(敬称)ではなく、その職掌を司る一族(から選出されて仕えている者)を言います。
「このハレの場に門を開けぬとは、お前たちは一体どういうつもりか!」
咎められた伴・佐伯の両氏ですが、彼らは悪びれもせずに答えました。
「そうは仰いますが、実際に門を開けるのは門部(かどべ)氏の仕事であって、門部の手配は私どもの管轄外です」
「だからと言って、定刻になっても門が開かぬことについて何も思わぬのか!臨機応変に対処せんか!」
「はいはい」