今がちょうど見頃の花「紫陽花」。
桜や芍薬などに比べると数は多くはありませんが、江戸時代頃から、紫陽花を描いた作品も見られます。
そこで、この記事では紫陽花を描いた日本画・浮世絵を、製作された年代順に紹介したいと思います。
伊藤若冲《紫陽花双鶏図》
伊藤若冲の代表作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」のうちの一枚です。
若冲は独特の色使いや構図、さらには描く題材の斬新さから「奇想の絵師」と呼ばれました。
極彩色の雌雄の鶏の背景に、負けじと鮮やかなブルーの紫陽花が描かれています。
「紫陽花と鶏」という、花鳥画の題材としては珍しい二つを組み合わせたのも、さすが若冲という感じです。
酒井抱一《四季花鳥図巻》
春夏秋冬、それぞれの季節の花や小鳥、蝶などを描いた酒井抱一「四季花鳥図巻」の一部です。
夏の花として、水色とピンクの紫陽花が描かれています。
色の表現は、琳派の特徴の一つ「たらしこみ」という技法を使っています。簡単に言うと「にじみ」や「ぼかし」となりますが、絵の具で色を塗り、最初の色が乾く前に次の色を乗せて自然なグラデーションに仕上げる描き方です。
このたらしこみによって、葉の部分は本当に雨に濡れて水滴がついたような表現になっています。
隣のクレマチスや芍薬の葉は均一に塗られていて、紫陽花だけにたらしこみが使われているので、意図的に梅雨の時期の花らしさを表現しているのかもしれません。
雨の中、つやつやと光る紫陽花を美しいと思う心は、今も昔も変わらないようです。
歌川国貞・歌川広重(初代)合作《当盛六花撰 紫陽花》
1854〜55年にかけて製作されたシリーズものの浮世絵で、花を背景に、当時人気の役者を描いた作品です。
役者絵が得意な国貞と、「東海道五十三次」でお馴染み、風景画が得意な広重のコラボ作品で、もちろん、広重が背景を、国貞が人物を担当しました。
紫陽花の淡い水色の花びらと、ブルーグリーンの葉がとっても涼しそう。
右の男性が持っているのは白玉です。「冷や水」といって冷たい砂糖水に紅白の白玉を浮かべたもので、江戸時代では夏のスイーツとして定番でした。