「昨夜その角で見かけたよ」……今でも街に妖怪の存在が息づく『遠野物語』の舞台【その1】

高野晃彰

「遠野物語」を読んだことはありますか?

岩手県の遠野市に伝わる、怖い話・哀しい話・残酷な逸話や伝承などを「民俗学の父」と呼ばれた柳田国男が編纂したもので、今から110年前に発表されたものです。

風光明媚で自然に囲まれたこの地方には、昔から語り継がれた不思議で異様な体験談が多く、現在でも身近に感じられるそう。

24時間眠らない現代の都市には、妖怪や神さまが身を寄せる居場所が無くなったものの、豊かな自然が残された遠野にはその存在が息づいています。

たくさんの不可思議な話が集められている「遠野物語」。その世界に引き込まれてみませんか?

妖怪とは?…を追求、全国の怪異伝承を集めた官僚・柳田国男

日本民俗学の父と呼ばれ、作家で官僚でもあった柳田国男

岩手県遠野地方の民話蒐集家で小説家の佐々木喜善より語られた遠野に伝わる妖怪や神などにまつわる異聞を、柳田が筆記・編纂した形で出版されたのが「遠野物語」です。

今でも多くの人が愛読しています。

「遠野物語」が発表されたのは明治43年(1910年)。

当時、日本人の多くが海外へと関心を持ち目が向く時代に、柳田国男は、その対極ともいえる日本の山村に注目。

本の出版にあたり以下の言葉を周囲に送りました。

此書を外国に在る人々に呈す
— 柳田國男「献辞 『遠野物語』」

題名とこの献辞のみ筆で書かれいるため、清書本を印刷所へ持ち込む最終段階で書いたのではと推測されています。

4ページ目 近代化する都会人へ…「平地人を戦慄せしめよ」

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