百人一首の絵札(読み札)を見ていて、こんな質問がありました。
「この男の人が顔の横にくっつけてるこのブラシみたいなものは何?」
平安時代の男性がつけているこのパーツ、いったい何と言う名前でどういう役割があるのか、今回はそれを紹介したいと思います。
緌(おいかけ)の役割と語源
まず、これの名前は「緌(おいかけ)」と言います。
冠の巾子(こじ。束ね上げた髪を収める後部の突起)から両側面に緒(お。あごひも)をかけることで、冠を頭部に固定する役割があります。
言葉の構成は「お(緒)」を「い(動詞につけて意味を強める接頭語)」+「かけ」る≒しっかりと掛けて冠を固定するもの(緒)、という意味になります。
「(冠を)糸に委ねる」という漢字(緌)からして、冠が外れない=恥をかかずにすむ安心感がありますね(かつて男性にとって、冠などが外れて頭髪を晒すことは恥とされました)。
別の漢字で「老懸」とも書きますが、これは年老いて髪の毛が減ると、束ねてもボリュームがなくなるため、冠の固定をあごひもでフォローする必要が生じるためです。
※古来、冠や烏帽子などの被り物は内部のひもを髻(もとどり。束ねた髪)に結びつけることで固定していましたが、やがて時代が下るとあごひもで固定することが多くなります。
ちなみに、ブラシみたいな部分は緌の装飾として馬の毛で作られ、威儀を正すために武官が装着していました。
扇状に広がる馬の毛がマンガの集中線みたいな視覚効果をもたらすのか、顔の輪郭が強調されると共に、存在感を放ってカッコよく見えますね。