前回のあらすじ
時は平安、急遽深夜に遠出しなければならない用事が出来た明尊僧都(みょうそん そうず)に、関白・藤原頼通(ふじわらの よりみち)が護衛をつけてくれます。
……が、その男・大矢左衛門尉(おおや さゑもんのじょう)こと平致経(たいらの むねつね)は実にみすぼらしく、遠路にもかかわらず馬さえない有り様。
頼通は「この男なら大丈夫」と太鼓判ですが、危険な夜道で命を預けなければならない明尊としては、不安でたまらないのでした……。
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平安最強!謎の黒づくめ集団を率いた平致経の要人警護が京都で話題に【前編】
黒づくめの男が出没!
「……あぁ困った……警護してくれるのはありがたいが、徒歩で同行されては刻限に間に合わぬ……さりとてこの者らを振り切って、独りで行くのはあまりに心細い……」
さて、致経と下人に追いついた明尊僧都がブツブツ文句を言っていると、十字路に差しかかりました。するとその時、十字路の両側から一人ずつ、黒づくめの男(黒ばみたる者)が出て来ました。
「……さっ!……さ、左衛門殿っ!」
馬から転げ落ちんばかりに魂消(たまげ)た明尊は、震え上がって致経に助けを求めますが、致経はお構いなしにずかずかと先に進み、その男たちに近づいていきます。
(……もしやこの左衛門め、あの怪しき者どもとグルであったか!)
心中悔やんだところで最早手遅れ……と思った明尊でしたが、
「……え?」
その黒づくめの男たちは、致経が前に来ると、音もなく跪(ひざまず)くではありませんか。
「御沓(おくつ)にございまする」
黒づくめの片方がそう言って、致経の足元に乗馬用の沓を揃えて置くと、致経は無言のまま、藁沓の上からそれを履きます。
「御馬にございまする」
黒づくめのもう片方がそう言って、曳いてきた駿馬を差し出すと、致経はやはり無言のまま、その駿馬に騎乗します。
そして十字路の元来た方へ一度戻ると、それぞれ自分の馬と下人の馬を曳いてきて、三人とも騎乗。元からみんな馬で出て来たかのようです。
この間、余計な言葉は一言も発せられず、黒づくめ二人は明尊僧都の背後に回り、前方を行く致経と下人の四人でフォーメーションを組んで先を急ぎます。
何だか狐につままれたような気分の明尊でしたが、この後さらに驚かされることとなったのでした。