中宮定子のサロンでは評判の悪い行成
藤原斉信と同じく蔵人頭であった藤原行成も、中宮定子サロンに度々顔を出し、清少納言とも親しい間柄でした。「枕草子」にもよく名前が登場している人物です。
今回紹介するのは、清少納言と行成が冗談も言い合えるような親しい関係であることがわかる「職の御曹司の西面の立蔀のもとにて……」の段です。
行成が蔵人頭(文官の頭弁)となったころ、彼は定子サロンの女房たちの評判はよくありませんでした。若い女房たちは、
見苦しき事どもなど、つくろはず言ふに、「この君こそうたて見えにくけれ。こと人のやうに歌うたひ興じなどもせず、けすさまじ」などそしる
「枕草子」(校注・訳:松尾聰・永井和子「新編日本古典文学全集」/小学館より)
このように「行成はほかの人のように歌をうたったりもせず、しらける人だ」と批難されています。
あまりあちこちに愛想を振りまいたりせず、真面目な人柄であった行成。ここまで言われてしまうのはちょっとかわいそうですね。そんな彼を清少納言は評価し、このように言っています。
いみじう見え聞えて、をかしき筋など立てたる事はなう、ただありなるやうなるを、皆人さのみ知りたるに、なほ奥深き心ざまを見知りたれば、「おしなべたらず」など、御前にも啓し、また、さ知ろしめしたるを、常に、「『女はおのれをよろこぶ者のために顔づくりす。士はおのれを知る者のために死ぬ』となむ言ひたる」と、言ひ合はせたまひつつ、よう知りたまへり。
「枕草子」(校注・訳:松尾聰・永井和子「新編日本古典文学全集」/小学館より)
清少納言は、ほかの人が行成を「平凡な人だ」と思っていても、私は深みがある心の奥底を知っているので、定子さまにも「並一通りの人物ではありません」と申し上げている、と言っています。最後の部分では、当の行成のほうでも私のことをよく理解してくれている、と締めくくっています。
二人の関係が表面的なものではないことがうかがえますね。
清少納言が局にいなければ家まで訪ねる
行成はなかなか融通のきかない人でもあり、何か中宮に申し上げる際も、いちばん最初に取次ぎを頼んだ清少納言を探し、局(私室)に下がっていればわざわざ呼びつけ、里下がり(宮中から下がって自宅にいる)際もわざわざ押しかけてでも
「おそくまゐらば、『さなむ申したる』と申しにまゐらせよ」
「枕草子」(校注・訳:松尾聰・永井和子「新編日本古典文学全集」/小学館より)
と、中宮さまに取次ぎしに参れ、と言うのです。
3ページ目 気を抜いていた清少納言、顔をバッチリ見られてしまう。