こいつぁ春から縁起がええ!新しくって面白い江戸時代のお正月の風景

小山 桜子

お江戸という時代も今は昔、想像するより他なくなってしまったその風景。お正月はどんな風に過ごしていたのか気になりませんか。今回はそんな花のお江戸のお正月をちょいと覗いてみましょう。

お年玉は扇

江戸時代は年始回りのお年玉にお金ではなく扇を配りました。したがって江戸中で年の一番はじめに商いを始めるのは、扇売りでした。除夜の鐘もなかった当時、正月の訪れを知らせるのは扇売りの役目。

「扇売り 掛取りの気を 弱くする」という川柳があるように、年末に未払いの請求で貧乏長屋に押しかけ、借金取りのように強気で催促攻撃をしていた掛取りも、扇売りの「扇〜、扇〜」という売り声を聴くと「あぁ、もう正月になったのか」と急に静かになって引き下がったと言います。四畳半の貧乏長屋の奥に隠れてぶるぶる震えていた熊さんも、扇売りの声でホッと一息ついたことでしょう。

貞信「浪花自慢名物尽 玉露堂扇(部分)」国立国会図書館蔵

お年玉の扇は図のように桐箱に入れられ、足のついた台に載せて贈答されました。図の桐箱には「御慶」の文字が見えます。医者や商店では贔屓が多い事を示すために、玄関にその箱を積み重ねてさりげなくその数を自慢しました。今と違って医師には免許も資格もありませんでしたから、扇の箱の多さが信頼の証だったのです。

ちなみに、中身の扇は大量生産の安物の扇で、縁起の良い松竹梅や鶴亀の絵こそ描いてあれど、あまり使い物にはなりませんでした。

さて、お正月が終わればその扇箱は要らなくなりますから、扇箱買いという仕事もありました。

払扇箱買
楊洲周延「時代かゞみ 嘉永之頃(部分)」国立国会図書館蔵

扇箱買いの八つぁん、背中にたくさんの扇箱と扇台を担いで疲れたお顔でえっちらおっちら歩いていますね。世界一エコな町・お江戸では、この箱が翌年また活躍したのです。

3ページ目 いい夢を見れるように、枕の下には宝船

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