海外では「グレートウェーブ」と呼ばれる葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。北斎の画業を代表するこの作品、なんと北斎72歳の頃に描かれたもの。決して一朝一夕でできた作品ではありませんでした。今回は、北斎が波を描き始めてから「グレートウェーブ」に至るまでの長い軌跡を追います。
北斎の波はここからはじまる
さて、初めに紹介するのは1792(寛政9)年、北斎33歳の時の作品。北斎の波が見られる最も初期の絵です。
え?波?どこ?
ああ、ありました。左下です。おお、たしかに小波が寄せていますね。しかし絵の中の登場人物ですら、波には目もくれないほどの小さな波です。この時の北斎の波は、まだまだあの「グレートウェーブ」とは別物でしかありませんでした。
初めての波から10年後
それから10年ほど経ち、1803(享和3)年、北斎44歳の時に再び描いた波がこちら。
もしも北斎先生にこれを見せられたら、「北斎さん、あんたの波ずいぶんつるっとしたねえ!」と言ってしまいそうです。
構図の中で波のサイズはずいぶん大きく成長しました。ですが、のっぺりとしてまるで反り立つ壁のよう。波の先端の飛沫も、なんだかふわふわですね。波の描写というよりオリエンタルな雰囲気が先に立つ印象。可愛らしいという言葉がぴったりです。北斎自身もあまり納得いかなかったのか、2年後にリベンジします。
2ページ目 出来に満足いかず、また波を描く…。北斎漫画でも波を描く。