月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり・・・で始まる松尾芭蕉の「おくのほそ道」は、皆様ご存知の事と思います。今回はその「おくのほそ道」の中で、七夕にぴったりの傑作俳句をご紹介します。それがこちら。
“荒海や 佐渡に横たふ 天の河”
深川の芭蕉庵から千住大橋を渡ってスタートした「おくのほそ道」の旅も折り返しを過ぎた越後(新潟県)の出雲崎で詠まれた一句です。この頃、季節はちょうど七夕を迎えていました。
「おくのほそ道」の絶唱とも称されるこの句は、芭蕉マジックとも言える大変すばらしい工夫がされています。
まずは文字通りに読んで味わってみてください。ただ一人佇む芭蕉と佐渡島を隔てるようにうねる日本海。波間に浮かぶ佐渡島のほの暗い影。そしてそれらを洗い清めるように降り注ぐ満天の星。夜空に横たわる美しい天の川。
芭蕉と佐渡島の手前から奥への距離感、天と海との上下の対比。これらが見事に詠みこまれており、深読みせずとも夢のような情景が立体的に浮かび上がります。たった十七音の響きの仕業とは思えません。
さらにこの情景に奥行きを与えるのが、佐渡島の背負う歴史です。
3ページ目 古事記の神話にも語られる佐渡島。中世の昔までは罪人の流刑地だった。