長野県・小布施にある「北斎館」で、企画展「なんという目だ! ―北斎にはこう見える―」が開催されます。
葛飾北斎の洞察力と観察力に迫る企画展「なんという目だ! ―北斎にはこう見える―」。
生涯何万点もの絵を描いたという葛飾北斎は、凄まじい描写力の持ち主だ。同時に鋭い「目」の持ち主でもありました。北斎が描く動物や植物は、今にも動き出しそうなほどの躍動感と生命力に満ち溢れています。北斎は空に渦巻く雲や、矢のように勢いよく降り注ぐ雨、雲間を一瞬で駆け抜ける雷などをも、自身の目を通し掴み取ることができる絵師だったのです。
読本挿絵などに見られる爆発によって弾き起きる凄まじい閃光の表現は、モノクロ作品であるものの、思わず目を覆いたくなるような眩しささえ感じさせる。これら作品に見られる狂いのないデッサン力、描写力には驚かされるが、それも北斎のものをとらえる鋭い「目」の賜物でしょう。
主な展示作品の紹介
北斎の⽬には爆発と崩壊がこう⾒える!
ドカン!ぐらぐら、ガラガラ、ズシン!そんな⾳や、体を揺さぶる振動さえ感じられそうな本図は、宝永4年(1707)に起きた富⼠⼭の噴⽕に伴う災害を描いたものだ。⼀夜にして出来上がった「宝永⼭」の出現を、あえて⼭の姿を描かずに、崩壊していく家屋や⼟煙で表現している。⼈間では到底敵わない⾃然界の⼤きな⼒と恐怖を感じさせる作品だ。
北斎の目には風と雲がこう見える!
強烈な突⾵に惑わされる⼈々。⾶ばされまいと⼈々は⾝を屈め、強⾵を受けた⽊も⼤きくしなっている。⾵に⾶ばされた懐紙や菅笠が、空⾼く煽られ⼩さくなっていく様⼦が、強い印象を与える⼀枚。
同じシリーズの波の動きの⼀瞬をとらえた「神奈川沖浪裏」と並んで、⾃然界に起こる現象の⼀瞬の姿を映し取った作品として、海外でも⼤きな評価を受けている作品である。
北斎の目には光と影がこう見える!
暗く雲がかった富士の裾野に、ピカッと走る稲妻を描いた一枚。中腹より上には青空が広がっており、富士がいかに高い山であるかを感じさせる。北斎は版画作品を初め、版本、肉筆画の中にも一瞬にして鋭い光を放つ稲妻の姿をよく描いた。雷鳴が轟く直前に雲間から放出される電気の筋を、北斎は逃すことなく目に焼き付け、絵に落とし込んだのだ。
画面右には、大きくそびえ立つ不二の姿。その麓にはもくもくと怪しげな黒雲が湧き立っている。麓の村に吹く風は強くなりはじめ、家屋の茅葺き屋根を揺らしている。画面左上から伸びる線は、天からの落雷。直線を繋ぎ合わせたような面白い描き方で、一瞬の光の屈折を表現した。
北斎の⽬には⽔と波がこう⾒える!
渦潮で有名な鳴門海峡の波の様子を描いた1ページ。大小さまざまなかたちの渦波は、互いにぶつかり合い形を変えながらまた渦巻く。右ページには切り立った岩が描かれており、鋭い岩肌の様子を筆先を跳ねさせたような筆致で表現してるのが印象的だ。無限に繰り返される波と波の衝突、そして形の変化を、北斎は映像を記録するように自身の目でとらえていたのだろう。
『今様櫛キン雛形』(今様櫛キセル雛形)は、櫛職人、キセル職人のために描かれたデザイン集だ。これらは、同作中にある水や波のデザインもモチーフにした櫛のデザインで、風を受けて揺れる波濤や、渦巻く波、打ち寄せる波など、さまざまな水、波の姿を収録している。
これだけ表情豊かな波を描くことができるのは、北斎の水に対する鋭い観察眼があってこそ。
企画展「なんという目だ! ―北斎にはこう見える―」は2025年10月11日(土)〜 12月7日(日)の期間、北斎館(長野県上高井郡小布施町大字小布施485)で開催されます。
