新潮文庫から川端康成によるBL作品『少年』が発売されました。
川端康成没後50年にあたる4月を期に刊行された、川端の私小説でもあるBL作品『少年』。本作はこれまで全集でしか読めなかった珍しい作品で、1冊の本になるのは目黒書店より単行本が刊行された1951年以来、70年ぶりのこと。
1968年にノーベル文学賞を受賞、72年に突然の自死を遂げた川端康成。日本を代表する文豪が、少年時代、ヤングケアラーともいえる悲惨な暮らしをしていたことは、あまり知られていません。
大阪市天満此花町に生まれた川端康成は、幼くして父母を亡くし、七歳にして祖父と二人で暮らすようになります。家計は貧しく、大坂府立茨城中三年生の時は、学校から帰ると病中の祖父を介護し、世話をする日々。尿瓶の底に響く小水の音を「谷川の清水の音」と表現した感性の持ち主でしたが、客観的にみれば、まさしく「ヤングケアラー」の典型でした。介護の甲斐もなく祖父が死ぬと、文字通り独りになった川端は16歳にして中学の寄宿舎に入り、卒業までここで過ごすことになります。
十代の川端が、孤独と屈折を抱えていたことは想像にかたくありません。そんな川端の前に現れたのが、同室の美しい後輩「清野少年」でした。川端は二人の関係を赤裸々に書いています。――お前の指を、手を、腕を、胸を、頬を、瞼を、舌を、歯を、脚を愛着した。
旧制中学の寄宿舎で、川端が愛した〈美しい後輩の少年〉。ひそやかな二人の特別な関係とは。互いにうなじも唇もゆるしあっていた二人の間に起きた出来事と、痛切な別れ……。
本作を執筆するまで封印していた青春の蹉跌とは。『伊豆の踊子』につながる川端文学の原点に〈BL〉があったとは――。
川端康成によるBL作品『少年』は本日3月28日より発売中です。