おそるべき奇病
かつて、「日本住血吸虫症(にほんじゅうけつきゅうちゅうしょう)」という、一部地域の人々を苦しめた奇病がありました。
「風土病」という言葉は今では死語に近いですが、日本住血吸虫症はその一種です。日本住血吸虫という寄生虫が静脈に入ることで発症する病気で、甲府盆地の笛吹川・釜無川の周辺地域だけで発症者が出ていました。
発症するのは、河川や水田での作業の後です。まず手足にかゆみを伴う発疹が現れ、後に高熱、下痢、血便、血尿などの症状が現れます。これを何度か繰り返すうちに腹水がたまって腹部が大きく膨らみ、手足が動かなくなり、最悪の場合は死に至ります。
当初、この病気は「水腫脹満(すいしゅちょうまん)」と呼ばれており、戦国時代の記録にもこの病気のことが記されてるといいます。
この病気は海外では今も存在していますが、日本は平成の時代に撲滅されています。しかしそこに至るまでには、日本人と寄生虫との100年に渡る戦いがありました。
明治時代、この奇病に近代医学で立ち向かおうという人たちが現れました。まず山梨県東八代郡石和村の医師だった吉岡順作は、当時の「ホタル狩りに行くと腹が膨れて死ぬ」「セキレイを捕まえると死ぬ」という言い伝えから、病気の原因は「川」にあるのではと考えます。