皆さんは「海ゆかば」という歌をご存じでしょうか。
ずいぶん古い歌なので、若い方には流行らないでしょうが「聞いたことくらいはある」「なんかしんみりした記憶がある」方も少なくないかと思います。
短い歌詞なので、せっかくの機会に覚えていただけると嬉しいです。
♪海ゆかば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山ゆかば 草生(くさ む)す屍
大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かえりみはせじ……♪
作詞は「三十六歌仙」の一人として名高い大伴家持(おおともの やかもち)。その原文(長歌)は少し長いため割愛しますが、かつて天皇陛下の勅命を奉じた武人が戦を前に誓いを立てた情景を描写したものです。
いったい、武人はどんな誓いを立てたのでしょうか。
使命と建前に隠された武人たちの深い愛情
先の歌詞をごくシンプルに意訳すると、こんなニュアンスになります。
「海を征けば(戦えば)、海の藻屑となるでしょう。
山を征けば、骨は草に埋もれるでしょう。
しかし、大君のために死ぬ覚悟は出来ています。
後悔などしません」
これだけ聞くと「大伴家持って、主君に絶対服従な軍国主義者を賞賛しているみたい?」と感じる方もいるかも知れません。
しかし、ただそれだけの薄っぺらな歌であれば、永い歳月を経てなお「海ゆかば」が少なからぬ人々に愛され、歌い継がれるものでしょうか。
そこには、我が身をもって国家の平和と独立を守り継いだ武人たちの、建前に隠された深い愛情があるのです。