前回のあらすじ
渋すぎる!平隊士の身分を貫いた新選組の”仕事人”蟻通勘吾の美学【上】
幕末の京都を闊歩して、過激派尊攘浪士たちを取り締まった新選組(しんせんぐみ)。局長の近藤勇(こんどう いさみ)や「鬼の副長」土方歳三(ひじかた としぞう)をはじめ、個性派揃いな主要メンバーの活…
新選組(しんせんぐみ)の結成初期から入隊し、最期まで平隊士の身分を貫いた蟻通勘吾(ありどおし かんご)と、同期入隊の山野八十八(やまの やそはち)。
共に剣術・胆力を兼ね備えた勇士として定評を確立、「縁の下の力持ち」として幕末の京都を東奔西走します。
そんな中、彼らに思いがけない知らせが届くのでした……。
幕府の直参に取り立てられるも……
その後も勘吾と八十八はよきライバルとして切磋琢磨、隊務に励んでいた慶応三1867年6月。新選組はこれまで数々の活躍が認められ、徳川幕府の直参(じきさん。直属の家臣=幕臣)に取り立てられることとなりました。
これまで日本の行く末を憂えて天下の役に立ちたいと奔走しながら、やれ身分が卑しいだの素性が怪しいだのと蔑まれ続けてきた浪士たちが、いよいよ青天白日の下で大手を振って歩ける身分となったのです。
しかし、多くの隊士たちが肩書を得て喜んだり、思った肩書が得られず悔しがったりする中で、勘吾も八十八も平隊士のままでした。
ただ在籍していただけとでも言うならともかく、これまで命懸けで多大な貢献をしてきた二人が平隊士のままとは一体どういう了見か……他人事ながら不憫に思う声があったかも知れませんが、勘吾も八十八も、きっとこう考えたことでしょう。
「誰かが上に立てば、誰かは下につかねばならない。徒(いたずら)に虚名を求めるよりも、天下のお役に立つため、新選組の務めを最前線で担える栄誉を何よりも喜びたい」
みんな主役じゃ芝居にならぬ……勘吾や八十八の態度には、肩書よりも仕事にこだわったプロフェッショナルの矜持が垣間見えます。