初夏に漬けたらっきょうがそろそろ食べごろになる今日この頃。甘酸っぱい和製マリネの代表であり、カレーライスの脇役のみならず夏バテも吹き飛ばしてくれるおふくろの味です。
日本にやってきたのは平安時代。薬用植物として渡来しますが、江戸時代にはすでにいろいろな漬け方が紹介されていて、庶民の漬物として定着していたようです。スタミナ食として愛されてきたらっきょうですが、実は禅寺では肉や酒と共に食べてはならないものの一つなんです。
もともと大乗仏教では、「五葷(ごくん)」と言って匂いの強い植物を食べることを禁じていました。「えー、植物なのにダメなの?」と思われるかもしれませんが、にんにく・ねぎ・にら・のびる、そしてらっきょうは、他の野菜と違って匂いが強く、食べると精力が旺盛になるために、若い修行僧たちの精神の妨げになるということで、これらを食することを禁じていたのです。禅宗のお寺では、今でも「不許葷肉(酒)入山門」という言葉を門前にかけていますが、「ニンニク臭い人や、お酒飲んだり、お肉食べたりする人は、この修業の場にはふさわしくありません!」という注意書きなんですね。
もちろんこれらのスタミナ野菜は体を元気にしてくれる効能がありますが、一方でかえって気持ちが高ぶり、イライラしたり怒りっぽくなるというマイナス面もあるのだとか。特にらっきょうは「欲」を強めるんだそうです。たとえ薬でも、効き過ぎはよくないってことですね。こうした考え方は中国の「陰陽五行思想」から来ていますが、さらにもとをたどればインドの伝承医学「アーユルヴェーダ」のヨギーもらっきょうなどの「五葷」を避けているようです。
インドからやってきたカレーと、らっきょうのコンビを愛する私達としては、なんとなく不思議な気もします。まあ、あんまりバクバク食べるのではなく、品よく日に2~3粒いただくのがちょうどいいのかもしれません。