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[お江戸小説] ココロサク [お江戸小説] ココロサク 【5話】この恋、春が近づいてる?!

[お江戸小説] ココロサク 【5話】この恋、春が近づいてる?!

前回の第4話「おりんのしたもい」はこちら

第5話「この恋、春が近づいてる?!」

家の戸を叩いても、返事がない。出直そうかな…と思っていた矢先、ちょうど戻ってきた新八さんとバッタリ。
「あれ、どうしたの?」「この煙管、新八さんのですよね?」
そういって差し出すと、「そうそう、これ探してたんだ。おりんちゃん、ありがとう」と顔がほころぶ新八さんに思わずドキッ。

「あ、これ母が作った八杯豆腐ですが、よかったらどうぞ」
八杯豆腐は、豆腐百珍でも人気のメニュー。作り方は、薄切りの絹ごし豆腐を水6杯、酒1杯、醤油1杯で煮るだけと至ってシンプル。
「八杯豆腐!外食ばかりだから、うれしいなぁ。このあたり飲食店は多いから困ることはないけど、やっぱり手作りがホッとするね。お茶しか出せないけど、よかったらあがっていきませんか?」
ほかの人からこんなこと言われたら警戒するけど、新八さんだと素直に受け入れてしまうのは、やっぱり好きな人だから?
「じゃ、お言葉に甘えてちょっとだけお邪魔します」

新八さんが長火鉢でお湯を沸かしている間も、自然と話が弾む。
「これは…もしかして南総里見八犬伝ですか?あ、椿説弓張月もある!」

部屋の片隅に置かれていた本は、日本最初の文士といわれる曲亭馬琴の読本(よみほん)。興奮して、思わず声が大きくなってしまう。読本は教養人向けの娯楽小説といわれ、読み応えもばっちり。本のつくりも高級で値段もかなり高いので、おりんはもっぱら入手しやすい絵草紙(えぞうし)。でも絵草紙は10ページほどしかないので、あっという間に読み終わってしまうのだけど。

「おりんも、読書好きなんだね。共通の趣味があると、なんか嬉しくなるなぁ」。

新八さん、気が付いていないみたい。ここで最初に会ったときは「おりんさん」、そして「おりんちゃん」、「おりん」と呼び方が変わったこと。もしかして、私に対して親しみを感じてくれている?

 

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