近畿地方には、江州音頭なる音頭があります。江州とは、現在の滋賀県。そこで生まれ、京街道などの道から近畿一円に伝播した音頭です。
近畿あるいは関西の音頭といえば、河内音頭を連想するかも知れません。実際、河内音頭は発祥地・大阪南部を中心に強い支持を得ています。が、江州音頭もまた人気があるのです。その勢力範囲はひょっとすると、河内音頭より広いかも知れません。滋賀県のお隣・京都などは、地場産のメジャーな音頭を持たないためか、町の盆踊りとなれば江州音頭を踊るケースが多かったりします。
江州音頭の大きな特徴は、歌でしょうか。もちろん三味線や太鼓なども用いられますが、歌の比重がより重いというか。小編成の櫓だど、太鼓も三味線もなし、音頭取りがノンストップでひたすら歌い続けるだけという場合もあります。河内音頭も似た傾向がありますが、江州音頭の方がより民俗的というか、テイストがディープです。
盆踊りといえど、ダンスミュージック。普通はリズムが重視されるはずであり、実際多くの音頭で「ノリ」を牽引するのは、力強い太鼓です。が、江州音頭で「ノリ」を引っ張るのは、歌。太鼓のグルーヴに歌が乗るのではなく、歌が自らグルーヴを分泌し、他の楽器を追随させます。小編成の時はそれこそ、歌のグルーヴだけが剥き出し状態。リズムは、時に正確ではありません。それでダンスミュージックとして成立するのかといえば、櫓の周囲は踊る人でいっぱいだったりします。それも、舞うように静かに踊るのではなく、ビートを分割して体を揺らしてたりするのです。
江州音頭は、念仏や祭文など音頭のルーツと考えられる仏教的要素を色濃く残してるといわれます。確かに、リズムではなくメロディや歌詞に「ノる」のは、念仏踊り的といえるのかも知れません。が、同様のネイティブな盆踊りの多くが小規模だったり素朴だったりするのに対し、江州音頭は一方で非常に巨大化&現代化しています。「総おどり」と称して千人規模で踊ってたり、河内音頭以上にレゲエやアフロビートと野合してたり。現在進行形なのです。
「がめつい」という大阪商人のパブリックイメージの出元は、実は近江商人だという説があります。高島屋・大丸・西武・伊藤忠など名だたる大企業のルーツも、近江商人。もちろん、江州音頭の種を近畿一円に播いたのも、近江商人。それくらい、この地のバイタリティは強烈なのです。ひょっとすると将来、江州音頭は日本全国を勢力下に収めるかも知れません。それも、単なる盆踊りの一種としてではなく、リズムに対する抜本的な意識改革として。ワンマイクで場を制する歌のグルーヴは、あなたのすぐそばまで来てるかも知れないのです。
Go!Go!江州音頭~祭りで踊ろ! – 滋賀県江州音頭普及会
江州音頭 – wikipedia