めまぐるしい技術革新が繰り返される現代、日本の、そして世界の行方がとても気になります。そのときに参考となるのが歴史的な事実ではないでしょうか?
江戸東京博物館で開催中の「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」は、テクノロジーの進歩を見直す上でも参考となる展覧会です。幕末から明治にかけて、日本の伝統である浮世絵は、西欧から輸入された写真と出会いました。浮世絵と写真がお互いを意識し始めたとき、どのような事件が起こったのでしょうか?
「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」は、浮世絵から写真への移行を紹介する展覧会ではありません。様々なアプローチの結果である作品群を展示しているところが非常に面白いのです。
開国によって日本にもたらされた西洋の油絵。当時の日本の画家たちがこれに憧れ、泥絵やガラス絵などの素朴な技法で西洋画に近づこうとします。そんな中で誕生したのが写真油絵です。
写真に油絵具で着色するというユニークな技法は、横山松三郎によって考案され、弟子の小豆澤亮一に受け継がれました。小豆澤は写真油絵で専売特許を取得しますが、その5年後に死亡。写真油絵は人々に忘れ去られ、「幻の技法」となってしまいます。
「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」開催に当たって行われた調査の結果、小豆澤の作品がたくさん再発見されました。時代の流れに翻弄された新技術に思いを馳せてみるのも趣深いはずです。
ユニークな作品群が目立ちますが、時代が変化してもモチーフは変わらないという事実にも注目してみましょう。
江戸時代には、“100人の美女” の美女を集めた美人画が盛んに描かれました。その発想は写真にも受け継がれます。写真師・小川一眞は「凌雲閣百美人」をテーマに撮影しました。それらの写真は印刷・出版されて大ブームとなりました。美人に対する関心の高さはいつの時代も変わらないのですね。
「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」は、江戸時代の名所が描かれた2点の屏風を展示するプロローグで始まり、相撲錦絵を展示するエピローグで終わります。風景と人物を写すという役割は浮世絵にも写真にも共通します。その流れは、新技術が誕生しては消えてゆく現代のテクノロジーにも通じています。
時代の中で変わるものと変わらないものが、「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」の中ではっきりと見えてきます。展示を眺めながら、幕末から明治という激動の時代と多様な価値観が入り乱れる現代とを比較してみてはいかがでしょうか?新たな発見がきっとあるはずです。
特別展「浮世絵から写真へー視覚の文明開化ー」
会期:2015年10月10日(土)~12月6日(日)
会場:江戸東京博物館 1階特別展示室
開館時間: 午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)
休館日:月曜日休館(月曜日が祝日または振替休日の場合は翌日)