
人々の切実な願望を祈願した象徴「陰陽石」とは?奈良・水谷神社の「子授石」についての考察【前編】
読者の皆さんは、「陰陽石」というものをご存じでしょうか。簡単に言えば、男女の陰部に似た形の自然石のことを指します。
今回は、奈良県内でも有数の人気を誇る春日大社の摂社「水谷(みずや)神社」にある陰陽石を2回にわたりご紹介。
【前編】では、「陰陽石」とはどのようなものか。そして、「水谷(みずや)神社」と春日大社の関係についてお話ししましょう。
陰陽石は人々のもつ切実な願望を祈願した象徴
「陰陽石」は、女性の陰部のカタチのものを「陰石」、男性の陰部のカタチを「陽石」といい、一般にはこの二石を対にして祀ります。しかし、稀に「陰石」「陽石」が単独して存在していることもあります。
以前、Japaaanで紹介した奈良県明日香村・飛鳥坐神社の「むすひの神石」は前者、同じく明日香村の「マラ石」は後者の典型例と言えるでしょう。
奈良・明日香村にある謎の石造物!その名も「マラ石」とは?正体不明の陽石のことを考えた
現在のコンプライアンスにかかればセクハラまがいで、刑法ではわいせつ物陳列罪にもなりそうなリアルなモノが多い「陰陽石」。では、このような石は何の目的があって置かれているのでしょうか。
その理由としては様々な説が唱えられていますが、代表的な説は以下の通りです。
- 農作物などの「生産」を司る神の象徴として、信仰の対象となった。
- 邪気や病気などの侵入を防ぐ「呪術的」な要素で、村境などに置かれた。
- 「安産・子育て」「縁結び」の神として信仰されたなどなど……。
どうでしょう、どれもみな人々の生活と密接し、その切実な願望を祈願した信仰の現われなのです。
だからでしょうか、陰陽石を眺めているとどこか懐かしく、気持ちが温かくなってくるのも、その多くが「大らかな気持ち」で古来より信仰の対象として祀られていたからでしょう。
実はこの「陰陽石」、全国いたるところにあります。
神社の境内に祀られていたり、庭園の中に人為的に置かれていたり、山や川などの自然の中にあったり、その大きさも20m近いものから数10cmのものまで大小さまざまです。
しかも、その場所によって定義も目的も異なり、学問的にも多岐にわたる考察が必要な対象なのですが、もし訪れたところで目にするような時には、あまり難しく考えず、「大らかな気持ち」で拝んでみましょう。